goodbye,youth

増子央人

2020.03.30

コロナウイルス。桜に大雪。いつも通りの綺麗な夕焼け。世界の終わりはこんな感じなのかなとまるで他人事のように空想しながら開けた金麦をまた半分だけ飲んでシンクに捨てた。別に今終わってもいいや。来世はどこの星で暮らそう。そんな身勝手で自己中心的、こんなときに一つも笑えないことを日々考えているが両手の甲は手の洗い過ぎで荒れている。日々バイト先まで走らせる原付。この景色の中にもウイルスが蔓延しているかもしれないのか?といつもの田園風景を見て思った。ライブのない日々。相変わらず予定表を埋めるバイトのシフト。今日スタジオで久しぶりにドラムを叩いた。自分は、何をしている人だったっけ。

朝家を出るといつも見える貯水タンクの上に一羽の烏がまたとまっていた。カア、カアと鳴く声が虚しく空に響く。いつもより孤独に見えた。最近よく思うが、あいつは孤独だな、と他人から言われる人は本当の意味での孤独ではない。本当に孤独な人は誰の世界にも現れない。

増子ライブできてる?とコロナの影響を心配してくれた友だちから久しぶりに連絡が来た。優しさが嬉しかった。自分も、こんなときこそ人に優しくありたいと思った。次にいつライブをできるのかはまるでわからない。

朝家を出てバイト先へ向かう途中、毎朝開店5分前には何の仕事をしているのかわからないおじさんたちが並ぶゲームセンターの前に、小学生2人が並んでいた。出勤してすぐ、テレビのニュース番組に速報のテロップが流れた。「新型コロナウイルス感染が判明していたタレントの志村けんさん(70)死去」。体調不良を訴えてから2週間?70歳?うちのばあちゃんとじいちゃんより10歳以上若い。スタジオで座っていたハリセンボンの春菜が涙を流していた。眼鏡のレンズの内側に落ちた涙がテレビ越しに見えた。少しだけその姿を見て、途中でキッチンに入り仕込みをした。こんなときも、働かなければお金は貰えない。和牛券、お魚券では家賃も光熱費も携帯代も保険料も税金も、何も払えない。

部屋の濁った鏡が不透明な未来を映しているように思えたがそんな訳はなく、眠たそうな自分がこちらを見ているだけだった。