goodbye,youth

増子央人

2017.09.24

肌に触れる風は少し冷たく、長袖のシャツを羽織れることが嬉しく感じる。田んぼの横道には彼岸花が咲いていた。彼岸花は地獄に咲いている花なんだよと昔誰かに教えられてから、あの花はおれの中ですごく特別な存在だ。じ、地獄に咲いてるの、、!?だからあんな赤いのかすっげー、、と彼岸花を見つけるたびに少し興奮していた。夏が終わり、冬が始まる前、少しずつ寒くなっていく奈良はとても綺麗で、ずっとこんな日が続けばいいのにと思う。おれはこの季節に産まれた。25歳になった。

昔からの友だちの上東からおれの誕生日に連絡がきた。小学生の頃、同じ地区で違うチームのミニバスに入っていた上東はおれと同じぐらいの低い身長なのにとても上手くて目立っていた。憧れの存在だった。同じ市内の、おれは西中、上東は南中のバスケ部に入りよく練習試合をした。ポジションが同じでいつもおれが上東をマークしていた。気がつくと仲良くなっていた。そしてたまたま同じ高校に入り、もちろん2人ともバスケ部に入った。毎日必死に練習した。あいつより絶対先に試合に出るんだとたぶんお互い思っていた。良いライバルだった。ポジションが同じだが、たまにあいつといっしょに試合に出るときがあり、そのときは凄くワクワクした。おれたちはどこまでも上手くなるんだと思っていた。だんだんおれの方が試合に使われる頻度が高くなった。2年に上がるとき、上東は部活を辞めた。顧問が嫌いだったとか、練習がきつかったとか、色んな理由があったと思うが、1つ確実なことは、上東はプライドがとても高かった。高校を卒業して大学に入り、あいつは大学の友だちと居酒屋を開いた。今は奈良で二店舗の店長をしている。あいつなりにがむしゃらに頑張っているらしい。おれはバイト中、たまに酷く虚しくなるときがある。昼間の明るい時間にゴミ出しをするとき、光り輝く太陽に照らされる汚い制服のおれは、すれ違うスーツを着たサラリーマンたちがとても眩しくて見ていられなくなる。この前、ゴミ出しの帰り上東の働くビルの前を通ったとき、上の方で何か動いているものが見えてふと視線を上げると、満面の笑みの上東がこちらに手を振っていた。あの瞬間なんだかふと力が抜けて、心が軽くなった。

墨を入れる勇気もない、人を殴ったこともない、殴る勇気もない、バイトのブッチもできない、コンビニのおにぎりの値段を気にして、ただ毎日を普通に生きるおれたちは、友だちが頑張ってるという当たり前のような普通のことに、強く励まされる。9月の涼しい風は優しく体をすり抜けて、心を軽くしてくれる。おれは優しいこの季節が大好きだ。