goodbye,youth

増子央人

2019.10.06

中学2年の夏、3年生はあっけなく引退しておれたちの代になった。最後の試合で一度もコートに立てずに終わったキャプテンのたけしくんから4番を引き継いだ。南は相変わらず右からばかりドライブをしていたが、それでほとんど突破していた。清家は試合中ボールを奪うフリをして相手の顔面を殴り鼻血を出させて先生に怒られていた。残り3秒でボールを受け取り決めれば逆転勝ちだった場面でレイアップを外したよしとは試合終わりに1人で泣いていた。翔太は生意気な態度が原因で先生に怒られてまた1人でコートを走らされていた。練習終わりは吉岡の家に行き暗くなってリングが見えなくなるまで2人で練習をした。真面目に練習していた衛藤は朝練をサボっているのに試合に使われていたメンバーへの不満を溜め込んでいた。チームで一番背が高くて期待されていた林田は練習がきつくてバスケ部を辞めた。3年になって最後の夏の大会、おれたちは3回戦で白橿中学に負けて引退が決まった。試合に出ていた奴らが負けたあと笑っているのを見て、なんなんあれ、こんなに必死にやってきて、こんなとこで負けて、笑ってんのかよ。しょうもない。と衛藤が涙目で怒っていた。

先日通っていた中学の近くを原付で通った。新しい体育館からドリブルをつく音が聞こえた。6日の奈良でのワンマンライブで、フロアに一瞬、当時のバスケ部の顧問の先生が見えた気がした。勿論少し似ている別人だった。先生の怒鳴り声が一瞬だけ脳内を揺らした。勿論それは気のせいで実際に脳内を揺らしたのはえーすけの歪んだギターとなおてぃのベースの低音と自分が踏み込んだ24インチのバスドラムの音だった。確かに揺れていた。目の前にいる400人の人たちも揺れているように見えた。海のようなドラムを叩きたいんだと、そのときに改めて思った。そして同時に、現状、まったく叩けていないんだと思った。叩きたいと思うということは、そういうことになる。さらば街よを演奏しているとき、ステージからフロアへ光るオレンジの照明がお客さんの背中、ステージ正面の壁を丸く照らして、おれたち3人の影がオレンジの光の中に浮かび上がった。影法師のように壁に浮かんだその影はまるで小さな映画館で上映されるロードムービーのワンシーンのようで、見惚れていたら曲が終わっていた。演奏中なので実際に見惚れていたら曲が終わっていたわけがないのだが、そういう風に覚えている。素敵なライブハウスだと思った。同じバスケ部だった上東が初めてライブを見に来てくれた。上東はライブ終わり知らない間に楽屋に来て、音でかすぎて耳が痛いわ、と文句を言っていた。初めてのライブハウスだったらしい。こんな人数が3500円も払って観に来てんな、すげーことやな、と笑いながら言っていた。手にはAge Factoryのパーカーを持っていた。物販に並んで買ってくれたらしい。その日の晩は飲み過ぎた。次の日の昼に起きるともう頭なんて捨ててやろうかと思うほどの頭痛、水を2リットルは飲んだ。やはり冷蔵庫に液キャベかソルマック胃腸液プラスを常備しておくべきだと思った。