goodbye,youth

増子央人

2019.11.07

3日程前、銀行にお金をおろしに行くと、上東がいた。最近特に街でよく会う。明日結婚式やから、新札にしよおもて。と聞いて結婚式に出たことのないおれは何もわかっていなかったので、上東本人の結婚式かと思い、は?明日!?お前の!?と銀行で少し大きめの声を出した。いつもの悪ノリで上東は頷いた。おれはいつものようにその悪ノリに気付かず、こいつの結婚式には絶対に行こうと思っていたのに、おれは誘われることすらしなかったのか、なんだバンドマンだから忙しいだろうとか金ないだろうとか気を遣ったのか?彼女の顔も知っているのに、ていうかこの前飲みに行ったとき結婚式には誘うわ、とか言ってた気がするしたぶんだけど飲み過ぎてちゃんと覚えていないけど、クソふざけるな、と少し腹が立った。呼べよ!とまた少し大きめの声で言うと、またいつものように笑いながら、嘘や、友だちの結婚式や。と上東が言った。なんや嘘かよ焦った〜。少し安心した。さすがに呼ぶわ。上東はまだ笑っていた。当たり前やろ呼べ。じゃあ仕事行くわ、と言い笑顔のまま上東は銀行を出た。

一昨日、昔バイト先で少しの間一緒に働いていた2歳年上のバイト仲間をゲームセンターの前で見かけた。確か彼は太鼓の達人が得意で、休みの日のほとんどをゲームセンターで過ごすと言っていた。彼が叩き出すと人だかりができるらしい。自分で言っていたが、嘘ではなさそうだった。一緒に働いていたのはもう5年ぐらい前の話で、1ヶ月ほどで合わないからと言って彼はすぐに辞めていった。ゲームセンターにはまだ通っているんだ、と思った。すれ違う前に目が合ったが、話すことも話したいことも別にないし、おれのことを覚えているかもわからなかったので、気付いていないフリをして通り過ぎた。コンビニで金麦を一本買って飲みながら帰った。

毎日見ていた綺麗な稲は今年も刈り取られて丸裸の田んぼが満足げに空を見上げている。昨日も家の近くのゴミ箱は入りきらないゴミで溢れかえっていた。雲のように日々は流れて気付かないうちに消えていく。ミサイルでも落ちてこないかな、と不謹慎なことを思ったりする。隕石が落ちてきてやむを得ず全てが台無しになったり、海の底からゴジラが現れて街を無茶苦茶にしたり、そういうことを無責任にぼんやりと求めている。でもそうなると上東の結婚式が開かれなくなるから、やっぱりだめだ。結婚式が終わってからでいいや。ああでも結婚式が終わったら今度は子どもができたりするのかな。そうなったらまたしばらくはだめだ。家にだって遊びに行きたいし。この思考は結局いつも、明日も何も起きませんように、というところに落ち着く。たぶんそういうことの繰り返しで、退屈な日々が繋がっている。