goodbye,youth

増子央人

2019.03.13

春の代償で目が赤い。喉もかゆい。機材車はオレンジの無数の光の下を走り、大都会東京へ向かう。この前初めて東京タワーに登って、夜の東京を見下ろした。街に張り付くネオンは、福島で見上げた空に輝いていた星たちのように、無機質で、おれの想像の範囲の外にいた。最近バイト先に、中国人の社員が入ってきた。後輩の大学生は会う前から、キモいわー、おれ無理やわー、と言っていた。わざわざなんで?なんて聞かなかった。話しを聞こうとすら思わなかった。新しいバイトの面接に落ちた。一生懸命書いた履歴書は、こちらで責任を持って処分しますと言われた。必要とされないということは、やはり多少は傷付く。今まで別れを告げた人たちのことを思い出した。いつも行くうどん屋さんでバイトしていた金髪のあいつは今月の頭に東京へ上京した。もう奈良にはいない。明日のライブ観に来るって言ってたな。頑張らないと。バイト終わりの帰り道、近所の居酒屋さんの前に、鉢植えを見つけた。小さな木のようなものが植えられていて、そいつは窓から伸びる紐で真っ直ぐ立つように固定されていた。嘘ばかりついていた宮口さんのことを思い出した。もう1人で立つ力が残っていなくても、惨めが怖くて嘘ばかりついていても、カッコつけて生きようとする人に、おれは惹かれるのだと思った。カッコついているかどうかはあまり関係ない。その姿勢がカッコいいのだと思う。あの小さな木に教えてもらった。背筋がピンと伸びた気がした。