goodbye,youth

増子央人

2019.12.04

バイト上がりに急いで家へ帰り、近くの映画館へM-1グランプリ準決勝のライブビューイングを観に行った。晩ご飯を食べる時間がなかったのでバイト先で貰ったローソンの悪魔おにぎりを食べながら駅まで早歩きした。ろくに噛みもせず飲み込んだので喉に詰まってしゃっくりが出たが気にせず早歩きを続けた。映画館に着いて1番シアターに入るとほぼ満席だった。ホットドッグを片手にビールを飲みながら1人でゲラゲラ笑った。ライブビューイングが終わってすぐに席を立ち早足で映画館を出た。1人だったので知り合いに会いたくなかった。決勝戦出場者を予想しながら電車に乗ると、後ろから肩をトントンと叩かれた。振り向くと昔のバイト先の後輩だった。そいつも同じ映画館で同じものを観ていたらしい。お前も1人?と聞くと、はい、おれも観に行く人いなくて、と言っていた。お互い変な気まずさを感じていたと思う。出会ったときそいつは大学一回生で、まだ高校生らしさが残っていたのに、今は大学四回生になっていて、来年就職すると言っていた。時の流れの早さに驚いた。羽織っていた黒のジャケットが似合っていて、なんだかえらく大人びて見えた。黒のジャケットなんて、おれは一度も買ったことがない。そいつと店の営業終わりに朝まで飲んだことがあった。やりたいこと何もないんで、増子さんが羨ましいです、と酔っ払ってよく言っていた。大人になってわかったが、意外とみんな、本当にこれでいいのかと自分に問いながら走っている。あのときの先生も、あのときの先輩も、教科書に名前が残るような偉人も、みんなの憧れのロックスターも、みんな迷っていたと思うようになってから、人が近く感じるようになった。2人で準決勝の感想や決勝戦出場者の予想をしながら最寄り駅まで帰った。駅前のローソンでコンビニ弁当を買い、寒空の下を家まで歩いた。吐く息が白くて、そうかもう12月か、とまた時の流れの早さに驚いた。

 

2019.11.30

前回のHOPEツアーで福岡CBに来たときは天気が良くなかったので、すぐ後ろにある旧KBC電波塔にあまり目がいかなかったが、この日は空の青と旧KBC電波塔の赤と白が絡み合っていてとても綺麗だった。大通りにライブハウスがポツンと建てられている姿は国道24号線沿いの奈良ネバーランドと重なった。

G-FREAK FACTORYのライブを二階の関係者席から見ていた。「日はまだ高く」の途中でフロアの真ん中辺りにサークルができ、お客さん同士が肩を組んで飛び跳ねながらくるくると回っていた。おれの父親ぐらいの歳の人が、おれより歳下に見える男の子たちと楽しそうに肩を組んで飛び跳ねていた。なんて綺麗な景色なんだろうと思った。みんなが笑っていて、みんなが歌っていた。その景色の温かさに、何度か涙が出そうになった。愛に溢れていた。年末が近づくにつれてどんどん機嫌が悪くなっているバイト先の店長に、この光景を見てほしいと思った。一体何を感じて何を思うだろう。茂木さんは、戦国時代に産まれていれば間違いなく大将軍になっていたんだろう。部下から慕われるタイプの。いつの時代も、人の心を動かすのは血の通った人の言葉だと思った。

今日もG-FREAK FACTORYのツアーに呼んでもらい、広島へ向かっている。心が動く瞬間の景色、音をしっかりと覚えておきたい。

 

 

2019.11.26

最近揚げ物ばかり食べていたので、やよい軒へ行きしょうが鍋定食を頼んだ。本当はとりかつ定食(タルタル付き)を頼みたかったが野菜を摂らなければいけない気がしてグッと我慢した。一人暮らしになって約一年、ほぼ毎日自分が食べたいものばかり食べていたので、急に身体のことが心配になった。大人になったんだと思った。店員さんが持ってきてくれたしょうが鍋は誰が食べれんねんというほど煮えたぎっていた。火山の噴火口から出汁を取ってきたのか。猫舌のおれは勿論店員さんが持ってきてから5分程待って鍋に手をつけた。やはり何か物足りなさを感じたが身体に良さそうなことをしている気になったのでなんだか気持ちが良かった。

この前、東京で就活をしていた妹から、就職が決まったとLINEが来た。ずっと憧れていた、デザイン関係の会社で働くらしい。よほど嬉しかったのか、メッセージが立て続けに送られてきた。その最後に、お兄と仕事できるように頑張るわあ、という文が割れたiPhoneの液晶に浮かんだ。家族というのは本当に不思議だと思う。身体が少し軽くなった気がした。7年前に奈良を飛び出した妹は、少なくとも今日まで東京の街に潰されなかった。

この部屋に引っ越してから、ドアを開けて部屋を出るとき、外の景色の美しさにいつも力を貰う。もう一年が経ったのですべての季節を見たが、どの季節の景色も綺麗で透き通っていた。つい写真を撮ってしまうので同じような写真が何枚も溜まって、消して、また撮ってを繰り返している。奈良は良い街だと思った。

 

 

 

 

 

2019.11.20

19日の夕方、バイトを終えて近鉄電車に乗り難波へ向かった。高岡と数年ぶりに飲む約束をしていた。高岡は昔HEAD LAMPでドラムを叩いていて、増子くんいっしょに閃光ライオット出ましょうよ、とえーすけに誘われておれがAge Factoryのサポートをしていた頃に出会った。今はドラムをやめて大阪でラーメン屋の店長をしているが、昔からたまに連絡を取っている。難波へ到着して一軒目は串カツ屋に行き、高岡の希望で二軒目にHEAD LAMPの元メンバーのけいごが最近開いたバーへ行った。けいごとも物凄く久しぶりに会った。みんなバンドを辞めても、各々の道を一生懸命に走っている。迷って出した決断はすべて正しいんだと最近よく思う。そう思っていたい。けいごの同級生が1人カウンターで飲んでいたのでその子とも一緒に飲んだ。声が高くて、話し方や声色がお笑い芸人のダンビラムーチョのボケの方にとても似ていた。高岡がお祝いやからと言ってシャンパンを開けた辺りからおれの記憶はほとんどない。散々飲み散らかし、1時ごろに高岡が自分の家にタクシーで連れて帰ってくれたらしい。家の近くの吉野家で牛丼大盛りを食べたらしいが、その記憶もない。朝起きると高岡の部屋だった。本当にありがとう高岡。高岡は久しぶりに声が聞きたいからと家に帰る途中おれのiPhoneえーすけとなおてぃに電話をかけていたらしい。昨日えーすけとなおとと喋ったわと嬉しそうに言っていた。おれはその間も起きていて訳の分からないことを喋っていたらしいが、そんな記憶は脳味噌のどこをどう探しても見つからなかった。iPhoneになぜかハルカミライの須藤から朝方3時に着信履歴があった。確かこの日はハルカミライも難波でライブがあったので、打ち上げで泥酔してかけてきたんだろうと思いLINEで確認したらやっぱりその通りだった。もう少し電話が早かったらおれは泥酔したまま電話を取り打ち上げ先に向かっていたかもしれない。そうなると大惨事になっていたと思うので電話を取らなくて本当に良かったと思った。12時頃に2人で家を出て高岡が店長をしているラーメン屋に行きラーメンと炒飯と餃子を食べた。大二日酔いだったのでメニュー表を見て吐き気を催したが、食べ出すと大丈夫だった。とても美味しかった。ラーメン屋を出てから買ったばかりだという車で奈良まで送ってもらい、この日仕事が休みだった高岡が大仏が見たいと言うので奈良公園を案内した。男2人で奈良公園へ行ったのは初めてだった。そもそも、友だちと2日も一緒にいるということ自体が初めてだったかもしれない。たまにはこういうのもいいのかもしれないと思った。15時ごろに解散した。良い時間だった。

そのあとにローソンでオレンジジュースと缶コーヒーを買って、THROAT RECORDSへ行った。この日で7周年だったらしい。五味さんに差し入れのつもりで缶コーヒーを買ったが、THROAT RECORDSにはコーヒーメーカーがあったことをローソンを出てすぐに思い出した。しまったと思ったが、まあいいかと思いそのまま向かった。店へ入ると五味さんがカップ麺を食べていた。最近のバンドの話や家族の話なんかをした。レコードを何枚か試聴して、結局試聴していないFastbacksのライブ音源を買った。これ買います、と言って五味さんにレコードを渡すと、え?ほんまに買うの?と売っている本人が驚いていた。わざわざ盤で買うやつは変なやつしかおらんと思ってるから、と笑いながら言っていた。確かに最近はストリーミングで何でも聞けるので、わざわざ盤で買わなくても、と思うが、やはりアナログにはアナログの良さがあると思う。音がどうとか、そういう話は全然わからないが、聞くことに手間がかかる、というのは素敵だなと思う。勿論聞くことに手間がかからない、というのも同じぐらい素敵だと思うが。CDもレコードも、初めて聞くものを自分の部屋で1人で再生するときのワクワクは、ストリーミングで好きなアーティストの新譜を初めて聞くときのワクワクと少し違う気がする。お店に行って試聴したりジャケットで選んでみたりして音源を買って家に帰ってパッケージを解いて再生する、このちょっとした労力、かかった時間もひっくるめて好きなんだと思う。親指一つ動かすことに、時間も労力も思い出もほとんど存在しない。THROAT RECORDSがある通りには、やすらぎの道という名前がある。たまに店によって五味さんと話をすることが自分の生活の一部になっている。たまにしか行かないけど。やすらぎの道のあの場所で、これからもずっと続いてほしい。THROAT RECORDSを出てスタジオへ向かった。家へ帰る頃には日付が変わっていた。素敵な二日間だった。

2019.11.09

アラームが鳴る前に目が覚めた。天気が良かったので洗濯物を回して干した。予定より少し早くに家を出て、集合場所とは反対方向にある、白柴のいる八百屋へ向かった。ここに来るのは2回目になる。おばちゃんに軽く挨拶して、ゴン太いますか?と聞くとゴン太が家の中から柵のところまで出てきた。生後8ヶ月の割にはやはり落ち着いている。ゴン太はおれが差し出した右手の上に顎を乗せて、気持ち良さそうな目でこちらを見てきた。まあ、私のときは吠えるのに、なんなのやろこの違い。とおばちゃんが少し怪訝そうに言った。おばちゃんはもしかしたらゴン太のことをあまり好いていないのかもしれない、と思った。こんなに優しくて大人しい犬が何もされていないのに吠える訳がない。もしかしたらおばちゃんも気付いていない程度のことでゴン太の気に触るようなことをゴン太がこの家に来たばかりの頃にしてしまったのかもしれない。しばらく撫でているとゴン太はおれの手に顎を乗せたまま目を閉じた。もしかして、前世で友だちやった?とおばちゃんが近付いてきて言った。そうかもしんないです、と笑って答えた。手ぶらで帰るのはあれなので、今日もみかんを1袋買って帰った。昔なら、平気で手ぶらで帰って、ゴン太に会うためだけにまたここへ来ただろう。大人になったのかもな〜、と買ったみかんを見ながら思った。たまにここへ来ておばちゃんとゴン太に会い、みかんを買って帰るのが習慣になってきている。それまでみかんなんて自分で買ったことがなかったし、一年を通してほとんど食べなかったが、体に良さそうだし、良い習慣かもしれない。集合場所で機材車に乗り込み、京都へ向かう。

2019.11.07

3日程前、銀行にお金をおろしに行くと、上東がいた。最近特に街でよく会う。明日結婚式やから、新札にしよおもて。と聞いて結婚式に出たことのないおれは何もわかっていなかったので、上東本人の結婚式かと思い、は?明日!?お前の!?と銀行で少し大きめの声を出した。いつもの悪ノリで上東は頷いた。おれはいつものようにその悪ノリに気付かず、こいつの結婚式には絶対に行こうと思っていたのに、おれは誘われることすらしなかったのか、なんだバンドマンだから忙しいだろうとか金ないだろうとか気を遣ったのか?彼女の顔も知っているのに、ていうかこの前飲みに行ったとき結婚式には誘うわ、とか言ってた気がするしたぶんだけど飲み過ぎてちゃんと覚えていないけど、クソふざけるな、と少し腹が立った。呼べよ!とまた少し大きめの声で言うと、またいつものように笑いながら、嘘や、友だちの結婚式や。と上東が言った。なんや嘘かよ焦った〜。少し安心した。さすがに呼ぶわ。上東はまだ笑っていた。当たり前やろ呼べ。じゃあ仕事行くわ、と言い笑顔のまま上東は銀行を出た。

一昨日、昔バイト先で少しの間一緒に働いていた2歳年上のバイト仲間をゲームセンターの前で見かけた。確か彼は太鼓の達人が得意で、休みの日のほとんどをゲームセンターで過ごすと言っていた。彼が叩き出すと人だかりができるらしい。自分で言っていたが、嘘ではなさそうだった。一緒に働いていたのはもう5年ぐらい前の話で、1ヶ月ほどで合わないからと言って彼はすぐに辞めていった。ゲームセンターにはまだ通っているんだ、と思った。すれ違う前に目が合ったが、話すことも話したいことも別にないし、おれのことを覚えているかもわからなかったので、気付いていないフリをして通り過ぎた。コンビニで金麦を一本買って飲みながら帰った。

毎日見ていた綺麗な稲は今年も刈り取られて丸裸の田んぼが満足げに空を見上げている。昨日も家の近くのゴミ箱は入りきらないゴミで溢れかえっていた。雲のように日々は流れて気付かないうちに消えていく。ミサイルでも落ちてこないかな、と不謹慎なことを思ったりする。隕石が落ちてきてやむを得ず全てが台無しになったり、海の底からゴジラが現れて街を無茶苦茶にしたり、そういうことを無責任にぼんやりと求めている。でもそうなると上東の結婚式が開かれなくなるから、やっぱりだめだ。結婚式が終わってからでいいや。ああでも結婚式が終わったら今度は子どもができたりするのかな。そうなったらまたしばらくはだめだ。家にだって遊びに行きたいし。この思考は結局いつも、明日も何も起きませんように、というところに落ち着く。たぶんそういうことの繰り返しで、退屈な日々が繋がっている。

 

 

2019.10.31

家を出て少し散歩していると、近くに八百屋さんとパーキングが隣り合わせになっている場所があり、そこのパーキングの受付に白い芝犬が繋がれていた。恐らくそこで飼われている犬だと思う。こんな場所に外に出ている犬がいるなんて知らなかったので凄く嬉しかった。触りたかったが白芝はそこのお客さんらしき人たち3人ぐらいに囲まれていたので、渋々横の道を素通りした。しばらく経ってからもう一度そこを通ったがその人たちはまだ犬の周りにいて受付のおばさんと世間話をしていた。その間を通り抜けて白芝を触る勇気まではなかったので、また渋々素通りした。でも良い場所を見つけた。昼間にあそこに行けば白芝に触っていいんだ。明日にでもまた行ってみようと思った。明日ももし晴れていれば。

東京についての良い曲を見つけたので、上京している妹にLINEでその曲を教えた。返事はないがたぶん妹も好きだと思う。おれはやっぱり優しい唄が好きだと思った。

ハギビスが奈良を通過した2日後、福島の婆ちゃんの家に台風被害はなかったのか心配になり父に連絡した。家は大丈夫だったみたいだが、近くの山で土砂崩れが多発し、矢祭町の久慈川にかかる橋が流されて20軒ほどの集落が孤立している、と父から返信が来た。もう二週間ほど前の話なので今どうなっているのかわからないが、千葉の浸水被害、首里城の火災といい、今日本は様々な場所で痛手を負っているのにもかかわらず一部の行き過ぎたアホたちのせいで渋谷のハロウィン規制に国は1億円もの税金をかけなければいけないなんて、馬鹿げている。ハロウィンを精一杯楽しむ人たちがアホだということでは決してない、常識から外れて他人のことを考えずに街を汚し自分の価値を下げている人たちのことをアホという。明日までハロウィンキャンペーンやからオプションのコスプレ無料やねん、ハロウィンほんまに好きやわ、と言ってデリヘルを呼んでいた友だちの方がよっぽど健全にハロウィンを楽しんでいる。そんなことを考えながらおれはまた腹が減っていないのにコンビニでチョコクロワッサンを買ってしまった。500mlの水も1本買って機材車に乗り込み、アメ村へ向かっている。1年で最もアメ村に近寄りたくない日にアメ村でライブがある。あまり気分は乗らないが、bachoと火影で2マンができることはとても嬉しく思う。そういえば先日の鶴岡高専祭のときも、転換中にbachoの曲が流れていた。西の山に少しずつ夕陽が落ちて、空と山の境目が段々と変色してきた。絵具の何色と何色を混ぜたらあの色になるんだろう。まあいいや。今日も良い日になればいいなと思う。