goodbye,youth

増子央人

2018.08.25

少し寝坊して朝からのバイトに遅刻した。バイト先には店長と係長が出勤しており、おれはキッチンにいた係長と無駄話をしながら仕込みをしていた。何故か話の流れでおれは不意に、自分の家の話をしてしまった。話をした直後に、いや、正確には話をしている最中に、言葉が口から出てくるその最中に、ああおれは今なんでこんな込み入った話をこの人にしかもこんな場所でしてしまっているんだろう、という後悔の念が頭の中をぐるぐると回っていた。しかし係長は真剣におれの話を聞いてくれた。聞いてくれていたので、こちらも言葉がスルスルと口から出てきてしまった。でもやっぱり、立派な人間は、そんなに簡単に自分の家のごたごたを他人に話すもんじゃない、と最近読んだ小説の中の女が言っていたし、おれもそう思うので、話すべきじゃなかったと、後悔した。話題は変わり、好きな音楽の話になった。その人はかりゆし58が大好きで、少し前にその人からその話を聞いたとき、おれもかりゆし好きなんすよ!と言うと、とても嬉しそうに驚いていた。昨日もかりゆし58の話になった。おれほんまに大好きでさ、今までできた女とか、みんなにCD聞かせてるわ。めっちゃ影響与えられたなー、まずさ、歌詞がさ…、と、その人はかりゆし58の話をし出すと止まらない。本当に好きなんだろうなと、その人の少年のようなキラキラした目を見て思った。おれは、人が本当に好きなもののことを話ししているときのあの目が好きだ。少し照れ臭そうなあの目は、とても美しいと思う。

夜になり、おれは休憩時間を使って、奈良ネバーランドまで、泣くなよベイベーズのライブを見に行った。ネバランに着くともう既にライブは始まっていた。泣くなよベイベーズのギターの田中は、見に来てくれていたその日誕生日だと言う自分の母親に恥ずかしげもなくステージからおめでとうと言ったり、ラブソングを歌うとき、長野から見に来てくれていた最前列の彼女の目をチラチラ見ながら照れ臭そうにしていたり、おばあちゃんに書いた歌ですと言って、飛びっきりの笑顔であなたのことが好きですと歌っていたり、なんだか全部がとても綺麗で、人間臭くて、真っ直ぐで、田中らしくて、とにかく、素敵だった。

何を素敵と思い、何をカッコいいと思い、何に感動し、何を好きと思うか、そういうことはやっぱり、自分の尺度だけで決める。お前が好きって言ってるあの音楽、みんなダサいって言ってるよ、とか、お前が好きって言ってるあの人、みんなウザいって言ってるよ、なんてことは、どうでもいい。どうでもいいと、思いたい。おれが好きか嫌いか、世界はそれだけでいい。おれはやっぱり、泣くなよベイベーズが大好きなんだと、昨日思った。