goodbye,youth

増子央人

2019.11.09

アラームが鳴る前に目が覚めた。天気が良かったので洗濯物を回して干した。予定より少し早くに家を出て、集合場所とは反対方向にある、白柴のいる八百屋へ向かった。ここに来るのは2回目になる。おばちゃんに軽く挨拶して、ゴン太いますか?と聞くとゴン太が家の中から柵のところまで出てきた。生後8ヶ月の割にはやはり落ち着いている。ゴン太はおれが差し出した右手の上に顎を乗せて、気持ち良さそうな目でこちらを見てきた。まあ、私のときは吠えるのに、なんなのやろこの違い。とおばちゃんが少し怪訝そうに言った。おばちゃんはもしかしたらゴン太のことをあまり好いていないのかもしれない、と思った。こんなに優しくて大人しい犬が何もされていないのに吠える訳がない。もしかしたらおばちゃんも気付いていない程度のことでゴン太の気に触るようなことをゴン太がこの家に来たばかりの頃にしてしまったのかもしれない。しばらく撫でているとゴン太はおれの手に顎を乗せたまま目を閉じた。もしかして、前世で友だちやった?とおばちゃんが近付いてきて言った。そうかもしんないです、と笑って答えた。手ぶらで帰るのはあれなので、今日もみかんを1袋買って帰った。昔なら、平気で手ぶらで帰って、ゴン太に会うためだけにまたここへ来ただろう。大人になったのかもな〜、と買ったみかんを見ながら思った。たまにここへ来ておばちゃんとゴン太に会い、みかんを買って帰るのが習慣になってきている。それまでみかんなんて自分で買ったことがなかったし、一年を通してほとんど食べなかったが、体に良さそうだし、良い習慣かもしれない。集合場所で機材車に乗り込み、京都へ向かう。