goodbye,youth

増子央人

2018.10.04

先月26歳になった。生活は相変わらず、苦い奈良の空気を吸い込んではコンビニの缶ビールで日常を誤魔化している。体に悪そうなものばかりを摂取して、季節が乱暴に変わっていくのを1Kの狭い部屋から他人事のように傍観していた。好きなあの邦画のように、特に何も変化はなく、ただ確実にフィルムが進んでいく。人は人に依存してはいけないということを、音楽や、本や、人から、なんとなく悟った。日々の生活のすべては自分で選択ができる。SNSに生きる若者の、例えば、おれはあいつフォローをしてるのにあいつはおれをフォローしていない、そういうような、宇宙から見たミジンコほどの小さな小さな問題を重要視してしまうような人は、おれが将来書く小説には登場しない。空想の世界なら尚、そういった人たちは美しさとはかけ離れている。

机の上にはピーナッツチョコレート、水の入ったコップ、読みかけの小説、ブックオフで買ったDVD、セブイレのおしぼり、少しの不安と未来への期待。少しずつ寒くなる奈良は美しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

2018.09.19

巣鴨のカプセルホテルを早朝に出て、車で埼玉へ向かった。今日はMV撮影をする日。都会から田舎へ車は進んだ。相変わらず田んぼの稲はどの土地のものも美しい。金木犀の香りや、赤トンボ、心地良い風なんかが、パレットの上に赤色の絵の具を出して、ボードをどんどん染めていく。少しずつ黄色も入ってきて、淡い秋になっていく。過去の自慢話を口にすると、今の自分は小さくなる。陰口を言うと、綺麗なものが見えなくなっていく。不安を口にすると、意志は弱くなっていく。そんな気がする。この前、THROAT RECORDSに行ったとき、五味さんと、音楽の話ではなく生活の話をした。帰り道はなんだか酷く足が重く感じて、口からため息が漏れた。負けるなよ、と五味さんは言っていた。沈みかけの太陽が酷く眩しい。 MV撮影で汗だくになったTシャツが熱を冷ましていく。

 

 

 

2018.09.15

朝方の4時頃奈良に帰ってきた。部屋に着いて思い出したが、そういえばこの遠征に出た当日は、確か昼の1時頃に奈良を出た。そしてその日は朝の10時頃まで飲んでいた。居酒屋を二軒はしごして、その後なんだか大勢がおれの部屋に来たがあまり覚えていない。そして出発時間の20分前ぐらいに起きて慌てて準備をし、二日酔い、というか完全に酒が残ったまま、機材車に乗り込み、大阪へ向かった。なので部屋には飲んだ覚えのない空の缶ビールや、恐らく部屋に来た誰かが買ってきたであろう缶酎ハイなんかが冷蔵庫の中に入っていた。どれだけ酔っていても缶酎ハイは自分では買わないので、恐らく誰かのだ。実家から持ってきてソファの上に置いていた冬物のパーカーやスウェットなんかは、綺麗に畳まれてベッド下収納のスペースに直されていた。ビバラロックに出たときに貰ったインスタントラーメンが一つ減っていて、この部屋に越してきてからまだ一度しか使っていない深めのフライパンが綺麗な状態でコンロの上に置かれていた。恐らく誰かがラーメンを作って食べたのだろう。そしてフライパンを洗ってそのままコンロの上に置いたのだろう。まあそんなことはどうでもよかった。シャワーを浴びて、スタジオの時間まで寝た。10時頃に起きて、DROP CLOCKのスタジオへ向かった。そのあとは家に帰って溜まっていた洗濯物を回して部屋に干し、干しきれなかった分は近くのコインランドリーの乾燥機で乾かして、バイトへ向かった。バイトが終わって、コンビニで缶ビールを買い、松屋で晩飯を食べ、今は部屋に戻りソファの上で扇風機に当たりながらこれを書いている。バイトから上がってiPhoneを見ると、久しぶりに、昔好きだった人から、今日暇?と連絡が来ていた。慌てて返信したが、しばらく経っても既読すらつかなかった。外が涼しいので、窓を開けている。真っ暗な外から鈴虫の鳴き声が聞こえてくる。眠たくなってきた。今日はもう寝よう。

 

 

 

 

2018.09.12

遠征中は、沢山書きたくなる。たぶん、いつも見ないものを見るし、いつも会わない人と会うし、いつもより1人になれるからだ。ずっとどこかへ旅をしていれば、ずっと何かを書くことができるんじゃないかと思う。機材車の窓からは青空が見える。この遠征中ずっと雨続きだったので、初めて青空を見たかもしれない。機材車は北上し、仙台へ向かっている。昨日は昼に西槇さんの写真展を見に原宿まで行った。西槇さんの写真は、とても好きだ。ど素人のおれは言葉では上手く説明ができないが、とても好きだ。写真を見て、あの生活が羨ましく思った。喫茶店のようなところで展示をしていたので、ハートランドを一杯飲んで、西槇さんと少し話しをして、展示場を出た。そのあと山手線と中央線を乗り継いで高円寺へ行き、せんちゃんと初めて2人で飲んだ。これと言った濃い話はしていないが、居心地は良かった。入った居酒屋には犬がいた。というより、犬がいたからその居酒屋に入った。シェパードのような見た目だが、シェパードほど大きくはなかった。源太郎のことを思い出した。途中から出勤してきた店員が若いオネエだった。金髪で刺青の入ったそのオネエを見るなり犬は仰向けに寝転がって腹を見せた。オネエは両手でガサツに犬の腹を撫でて、犬は嬉しそうにしていた。あのオネエはきっと、とても良い人だ。二軒はしごして、せんちゃんは夜勤へ向かった。危なかった。もう一杯飲んでいたら、きっと夜勤を休ませて朝まで付き合わせていた。おれは上機嫌で音楽を聴きながら慣れない東京の電車に乗って帰った。

 

 

 

2018.09.11

半袖じゃ肌寒いくらいに風が涼しい。西永福駅で渋谷行きの電車を待っている。目の前をおれの苦手な香水をつけた男が通り過ぎた。その嫌な香水の匂いをかき消すようにホームに電車が流れ込んだ。やはり少し寒い。昨日機材車で見た映画を思い出そうとした。あの映画はとても暗かった。昨日機材車で読んでいた小説を思い出してみた。今もポケットに入っている。まあざっくり言うと男と女の話だ。少し考えれば、あの男と女がどうなっていくかは、容易に想像できる。そういえばさっきすき家で食べたカレーはイマイチだった。50歳ぐらいのアルバイトのおじさんが1人で店を回していた。声は元気だったが、顔は疲れているように見えた。今日でアメリカでテロが起きてから17年経ったということを、朝のニュースで知った。雨雲が東京の空を覆っている。電車の中、窓の上、垂れ流しの広告がテレビから流れている。耳元からは好きな音楽が流れている。

 

 

 

2018.09.08

広島から大分へ向かう車内、外は雨が降っている。遠くの山には天女の羽衣のような薄い雲が山にかかり、幻想的な景色になっている。その手前を見ると田んぼには稲が背丈を揃えてびっしりと並んでいる。とても綺麗だ。台風にも豪雨にも負けず、誰に言われるでもなく、しっかりと米をつけ、その場所に立っている。またこの季節が来た。なぁお前たちはどうしてそんなに、強くいられる?毎年毎年、どうしてそんなに美しい?涙が出そうになる。深い緑の山々に囲まれて、圧倒的な黄緑色の稲たちは、地面から天を照らし、街を照らし、人々を照らしている。岡山の稲は、大阪の稲は、北海道の稲は、どうなんだろう。無事であってほしい。その宇宙のような美しさは、きっと人々を勇気付ける。無事であってほしい。

 

 

2018.09.05

大阪駅から奈良駅へ帰るまでに見える街はところどころが昨日の台風の影響で荒れている。根っこごと抜けて倒れている木、屋根の上で倒れているアンテナ、瓦の剥がれた屋根。電車の中、ビールを飲みながら他人事の景色を傍観する。目の前の向かい合う席には幸せそうな家族、4歳ぐらいの小さな男の子は母親に膝枕をしてもらい眠っている。おれの横に座る父がその男の子が抱きかかえているヒトカゲのぬいぐるみを引っ張って抜き取ろうとすると、その子はヒトカゲをぎゅうっと握りしめて離そうとしない。それを見て笑う母と父。なんだこの幸せな空間は。なんかビールなんて飲んでてすみません。その家族は次の駅で降りていった。耳元では大好きな音楽が鳴る。明日からツアーが始まる。