goodbye,youth

増子央人

2018.03.31

しばらく東京に滞在していた。今はホテルをチェックアウトして名古屋へ向かう車の中。東京にいる間、毎日色んな人と飲んだ。好きな人たちばかりと会って、好きな人たちばかりと飲んだ。友だちとの忘れられない夜(アダルトな意味ではなく)には、必ずと言っていいほど酒がある。素面でもそんな夜を作ることが大事なのかもしれないが、性格上、そんなことはできる気がしない。29日、下北沢に奈良の友だちARSKNを見に行った。打ち上げにもそのまま残って、りょうなと恭介くんと沢山話をした。東京で飲むのは変な感じだった。どこで飲んでも、好きな人たちと飲む酒は美味い。昨日はマイヘアの武道館を見に行った。関係者席には知り合いのバンドマンが沢山いた。マイヘアのスタッフのうーさんと会った。うーさんはハイテンションでずっと、来てくれてありがとうね〜!と言っていた。ライブ中、メンバーもみんなお客さんに向かってありがとうばかり言っていた。あの人たちがマイヘアを鳴らし続ける限り、この先どれだけ売れても、国民的バンドになっても、打ち込みの音とかライブで入れまくり出したとしても、打ち上げに出なくなったとしても、ずっと大好きなんだろうなと、ライブを見て思った。打ち上げに出なくなることは絶対にないだろうけど。でも身近なバンドの大きなステージは、やっぱりあんまり見たくないなと思った。劣等感しか生まれない。次はステージからあの景色を見たい。おそらく昨日見に行ったバンドマンはほぼ全員が同じことを思ったんだろうと思う。そりゃ数年前までドサ回り一緒にしていた先輩のあんな華々しい最高の舞台を見せられたら、みんな夢見るに決まってる。武道館の周りの桜があんまりに綺麗で、空は真っ青に晴れ渡っていて、少し暖かくて、まるですべてがマイヘアを祝福していたような、そんな日だった。

さっき寄ったサービスエリアのコンビニは混んでいて、レジには行列ができていた。2つのレジをおばさん2人で回していて、その横で大学生っぽい女の子が1人品物を袋に入れたり注文された揚げ物を取ったりしていた。おばさん2人は慣れた手つきでレジをこなし、女の子は不安そうな顔で言われたままに動き回っていた。片方のおばさんはクールに厳しい雰囲氣で、"ファミチキ2つ!袋別で!"などテキパキ指示を出していた。おれが並んだ方のおばさんは優しそうな雰囲気で、ちょうどおれの会計のとき、女の子が何かテンパって、おれには何の影響もない程度のミスをしたっぽかった。焦る女の子におばさんはニコッと笑いかけ、"大丈夫よ。"と言っていた。女の子はまだ慌てていた。歳を重ねても、ああいうおばさんのようになりたいと思った。

12歳の3月、入学前の中学校のバスケ部の練習に南といっしょに参加していたとき、桜が舞い散る中、校舎の周りの外周を知らない先輩たちと、離されないようにずっと走っていた。15歳の4月、高の原駅から高校までの通学路にある桜並木があまりにも綺麗で、上ばかり見ながら歩いていた。21歳の3月、もう会えなくなる奴らもいたから、辞めた大学の卒業式に、友だちに会いに行った。かっこいいスーツ姿や綺麗な袴姿のみんなが、同い年のはずなのに、もうずっとずっと先に歩く大人のように見えて、急に寂しくなり、精一杯に綺麗に咲く桜が、初めて自分以外のみんなを一生懸命に祝福しているように見えて、また寂しくなった。

今日で25歳の3月が終わる。

 

2018.03.18

レコーディングが昨日終わった。今日はスタジオが終わって、京都へ向かった。何回も行った京都は、帰り道少し飲み足りず、駅のコンビニで缶ビールを買って各駅停車に乗った。今は電車に揺られながらビールを飲んでこれを書いている。

毎日通る駅までの道に、道路際の家の庭からはみ出るほどの桜の木があった。1ヶ月ほど前、いつものように駅まで原付で向かっていると、いつもあるはずの場所にその木はなかった。ちょうどその家は信号の隣にあって、赤信号で止まる度に左上からこぼれてくるその家の桜に、もう何年も目を奪われていた。その桜の木が突然なくなった。その家の庭がすっきりしていたから、恐らく庭師の人に切られたんだろう。おれは今年もその木に桜が咲くのを楽しみにしていた。少し背の高い車が横切ると、風で桜の花びらが空を舞う、あの瞬間がとても綺麗で、桜は基本的に弱くて儚いが、あそこの桜は特別に儚く感じた。最近はその交差点での信号の待ち時間がいつもより長く感じる。

 

 

 

 

2018.03.10

庭の桜が咲いていた。蜜蜂が桜の蜜を取っていた。気温は先週よりぐっと下がっている。天気は良い。またDROP CLOCKのスタジオに寝坊してしまった。怒られないのを良いことに、月に二、三回しかないスタジオなのに最近寝坊続きだ。交通手段が電車の場合、どれだけおれが急いでも到着時間は変わらない。逆に気が楽だ。天気が良いから、遅刻しているのに気持ちはのんびりしている。電車の中、ドアの窓から日差しが差し込んで外の気温を感じないまま体が温かくなる。この感覚がとても好きだ。広い平城宮跡が窓の向こうに見える。まだ桜が咲いていないから少し殺風景だが、桜が咲くと凄く綺麗なんだ。ここからの景色も好きだ。この景色を見るときは余計なことを考えないで済む。ここの前を通る少しの時間だけは綺麗な景色だけで頭の中がいっぱいになる。あ、駅に着いた。そうだ遅刻していたんだった。

2018.03.01

風がとても強い。雲の流れが速い。頬にぶつかる風はやっぱりいつもより冷たくない。朝から少し電車が遅れているけど、その分だけ音楽を聴けるからまあいいや。アナウンスが何か大切なことを言っている気がするけど、音楽を聴いているせいで何も聞こえない。もうなんでもいいや。今朝の朝焼けがとても綺麗で、昨日は月がとても綺麗で、この前読んだ本がとても綺麗で、この前聴いたあいつらの新譜がとても綺麗だった。今朝は向かいの家のはなちゃんと会えたよとか、クッキーは犬小屋で寝てたよとか、ゴールデンレトリバー二匹も散歩してる人がいたよとか、駐車場で気持ちよさそうに猫が寝ていたよとか、日常の景色がいつも以上に目に付く。あ、電車が来た。よかった。

 

 

 

2018.02.28

今日であの子と会えるのは最後かぁ。あいつ今日めっちゃワックスつけてへん?おい体育のあの先生泣いてるやんやば!明日から髪の毛染めたろ〜。あの子結局大学どこ行くんやろな〜。おいもうあいつ涙目なってるで。…なんやかんや寂しいなぁ。

卒業式の朝は卒業ソングを聞いていた。あぁ卒業かぁという感情に浸れるだけ浸っていた。浸りたいときは、浸れるだけ浸っていいんだと思う。目の前を赤い近鉄電車がもう何本も通り過ぎていく。今日は各駅停車に乗りたい。もういよいよ暖かくなってきた。3年前のこの時期のことをよく覚えてる。バイト前、少し早めに家を出て咲きかけの桜をなら100年会館の前のベンチで見ていた。あのベンチによく座っていた。バイト終わりには、よく缶ビールを買って駅で最終電車を待つ間に飲んでいた。夏になって好きだった人と付き合えて、バイト終わりに缶ビールを買うことはしなくなった。家を出ると不安そうに春が来ていた。冷たくて綺麗な冬が終わった。

 

 

2018.02.24

横浜でのライブが終わって、機材車は夜の高速を走っている。奈良に帰っている。家には確か母さんが東京出張でしばらく帰らないからと鍋いっぱいに作ってくれたカレーがあった。明日の朝はカレーを食べよう。おれは奈良の家で母さんと二人暮らしをしている。母さんは、みんながいたときの癖なのか、未だに料理を作るときは10人分ぐらいの量を作ってしまう。二人じゃ食べきるのに何日もかかってしまうのに、いつも作りすぎてしまう。なんでこんな話になったんだっけ、あ、そうかカレーか。そうそう、明日はカレーを食べよう。トンネルの上にくっ付いてるライトをよく数えていた。数え切れたことはない。

快晴の青空が人の心を浄化して、音楽が人の心を溶かして、人の言葉が人の心を動かして、誰かを大切に思って、譲れないものを心に1つ持って、疲れたときはコンビニで少し贅沢をして、走って止まって、靴が破れたら新しい靴を買って、雨にも負けず、風にも負けず、雪ニモ夏ノ暑サニモ…。そういう風に生きることができたらいいなと思う。

 

 

 

2018.02.16

この前、LONEのワンマンライブを見に行った。ライブを見て、あの日のことをどうしても書きたくなったので、ここに書くことにした。

まだ手を振るすら出していなかった3年前の夏、ピアノガールとAge Factoryで全国ツアーをした。バンドが全国ツアーに行くときは、CDリリースをしてそのリリースツアーという形で全国を回る、というのが多い。そのときはAge Factoryもピアノガールも何のCDも出していなかったが、ただ武者修行のように、全国19カ所でライブをした。その九州、中国地方編でLONEが合流して、3バンドで4日間ツアーを回った。あの日々のことはなんだか不思議で、思い出したら、もう3年前のことだから、やっぱり昨日のことのようには思い出されないけど、ずっとあのときの感覚は覚えてる。とても青臭い話。

山口でライブをしたおれたちは、その日はハコで打ち上げをした。いつものように馬鹿騒ぎして浴びるように酒を飲んだ。確かよなにーくんとたけやくんがその日誕生日で、(2人は誕生日が同じ日だった、たぶん)ケーキを誰かが買ってきて、よなにーくんだけ顔面ケーキをくらっていた気がする。腹が千切れるほど笑って、打ち上げが終わって、次の日もライブだったので車に乗って次の日の県に向かう予定だったが、誰かが海に行こう!と言い出して、夜中2時ぐらいに山口の海へ向かった。おれは海へ行くまで機材車で寝ていた。しばらくしてピアノガールのスタッフのあおいちゃんが起こしに来てくれた。寝ていたので気付かなかったがどうやらすでに海に着いてから30分ぐらい経っていたようだった。あおいちゃんに連れられて暗い砂浜を歩いていくと奥の暗闇から波の音と笑い声が聞こえてきた。みんな元気すぎひん?とおれは眠たかったのもあり少しテンションが低かった。だんだん暗闇に目が慣れてきた。浜辺で遊んでいるみんなをよく見ると、服を着ていなかった。完全な全裸だった。寝起きのおれにはきついテンションだった。そして永田くんが恥ずかしがってパンツだけ履いていたのが見えた。すると確か毛利くんと秋くんが全力で永田くんのパンツを脱がしに行った。そしておれ以外の全員が完全に全裸になった。もちろん女性陣は服を着ていた。おれは毛利くんと目が合った瞬間に状況を察知し、静かに1人で服を脱いで全裸になった。もう恥ずかしいものなんて何もない。そこからはもう無茶苦茶だった。全裸の男11人で騎馬戦をしたり人間ピラミッドを作ってみたり、もうクタクタになるまで遊んだ。一通り遊んだあと、みんなでコンビニで買ってきた手持ち花火をした。花火をしながら、どんな話をしたかはあまり覚えていない。バカな話ばかりしていたと思う。ちなみに花火をするときはさすがにもうみんな服を着ていた。毛利くんとひろきくんは、途中でまた海に入ってゲラゲラ笑いながら泳いでいた。元気やなーと思いながらおれは余った線香花火に火をつけてぼーっとしていた。ひろゆきくんと秋くんは、砂浜に繋がる階段で日が昇るまで話をしていた。あの2人は仲が良いんだ。みんなが疲れて車に戻ろうとしたときも、2人はまだ階段で話をしていた。何の話をしていたかは知らないけど、なんとなく、2人だけの方がいいんだろうなと思って、そこへは行かなかった。おれは秋くんと話をしているときのひろゆきくんと、ひろゆきくんと話をしているときの秋くんが好きだ。

なんだかあの日のこと自体が、大好きな2バンドとがむしゃらにライブをして色んな場所に行ったあの日々のこと自体が、おれにとっては線香花火のようで、キラキラと輝いていて、まだ火は落ちていないんだ。あの日からまだずっと、キラキラと輝いていて、きっといつか火が落ちてしまうときが来るんだろうけど、今はまだ、火花を散らして小さく華やかに燃えているんだ。

そのツアーが終わって奈良に帰ってから、えーすけが新しい曲を書いた。グリーングリーンという曲だ。おれはその曲がAge Factoryの中で一番好きだ。

僕達はそれを青春と呼んだ。