goodbye,youth

増子央人

2018.11.10

高松を出て機材車は高知へ向かった。真っ白な画用紙の上にポスターカラーの青をぶちまけたような真っ青な空は、あそこまで青いとおれとは全く関係のないような、宇宙の果てを見ているような、テレビのリゾート地特集の番組で遠い海外の透き通る綺麗な海を見ているような、母に抱かれた、疑うことを知らない赤ん坊と電車で不意に目があった時のような、まあとにかくそんな空の青さが酷く他人事のように感じて逆に虚しくなった。機材車の中にはメンバーとスタッフ3名の計6人が乗っていた。とにかく早く1人になりたかった。

この世にはお金以上に大切にしないといけないことが沢山あると、父が教えてくれた。でもお金で人生は充分に狂うし、大切な人も離れてしまうということも、父から学んだ。夏の夕暮れの寂しさ、秋の鈴虫の綺麗な鳴き声、冬の雪の味、春の陽射しの優しさ、犬の目の綺麗さ、無限に輝く星の果てしなさ、近所のおじさんの優しさ、この地球の素晴らしさ。色んなことを、父から学んだ。人が惨めだと感じる瞬間はなんだ。26にもなって給料日前に口座に1000円も入っていないときか。後輩と飲んで何も言わずに会計を割り勘にしてもらったときか。チンピラに絡まれ殴られた友だちのことを見て見ぬ振りをして自分だけ逃げたときか。50を過ぎて実家に帰ってアルバイトをしているときか。夢がなくなったときか。まだおれにはわからない。宇宙のことを考えると、これらの話は驚くほどちっぽけなことのように感じて、自分がどれだけ小さなことで脳みそを使っているかが浮き彫りになる。だから宇宙の話が好きだ。面接官、あなたが紙切れ一枚と30分でおれの全てを判断できないのと同じように、おれも宇宙のことなんて26年生きた程度じゃ何もわからない。そんなことを考えていたら眠くなってきた。ライブハウスへ戻る。