goodbye,youth

増子央人

2017.09.12

朝、機材車はいつも通りなおてぃーの運転で奈良から広島へ向かう。車内は全員がイヤホンを付け、会話はない。ツアーを何本か付いてきてくれる照明のちえみちゃんも車に乗っていたがもうこの様子には慣れたようでみんなと同じようにイヤホンを付けていた。おれは睡眠、読書、iPhoneを触るをただ欲のままに繰り返していた。そうしている間に広島へ到着した。なおてぃーにはいつも感謝している。先に断っておくが運転をさせているわけでは決してない。全員運転免許は持っている。これはあくまで彼の意志なのだ。彼は人の運転で酷く車酔いする。あと彼は天性の心配性なので助手席で落ち着いて寝ることがあまりできないらしい。なので必然的に彼が運転をしている。これはあくまで彼の意志なのだ。

広島へ着きリハーサルを終え、タワーレコードへ挨拶に行った。店長さんらしき人が後から出てきてくれて、「お久しぶりです」という、発する人によっては一瞬で冷や汗をかく言葉を発した。一瞬で記憶を遡ったがまったくどこで会ったか思い出せず少し冷や汗をかいた。おれたちは3人ともおそらく同じことを思っていた。結局誰だったのかわからないまま軽く挨拶を交わして展開場所で写真を撮ってもらった。マイヘアの展開場所の右下に、サブで置かれるにはあまりに目立ちすぎるジャケットのCDが窮屈そうに置かれていた。マイヘアの展開場所に便乗するかのように置かれることは多い。もうあまりなんとも思わないと言うと嘘になるが、マイヘアのことは大好きなのでやはりあまりなんとも思わない。と言うと嘘にはなる。やはり堂々とメインで展開をされていたい。ただそうなるにはまだ圧倒的に売れていない。だからこれは仕方がない、そういう意味では本当にあまりなんとも思わない。タワレコを出てからは各自自由に散る。ゆっくり本を読める場所を探して広島の街を歩いた。途中でいい感じの公園を見つけたのでそこでしばらく本を読んでいたが気がつくと睡魔と戦っていたのとスタート時間の10分前になっていたので立ち上がってライブハウスへ戻った。出てくれた対バンのライブを見て、おれたちの出番になった。出番前にえーすけが「ツアー初日です、よろしくぅー」とボソボソっと言い放ち、SEの流れる薄暗いステージへ向かった。本編を終え、アンコールまで終え、汗でビショビショ満身創痍の中楽屋に戻ると、拍手の音がまた一定のテンポを刻み出し鳴り止まなかった。初めて自分たちのライブでダブルアンコールというものを見た。2回目は出ない、ということだったので、感謝と疲労と感動と、いろいろな感情の中、鳴り止まない拍手を楽屋でただ聞いていた。客電がつき、フロアへ降りて少しお客さんと話しをした。Hump BackのTシャツを着たおじさんが、「仕事サボってきました」と言っていた。東京から来たと言っていた2人組の女の子が「飛行機乗り遅れて、お金無駄になっちゃったんですけど、新幹線で来ました」と言っていた。純粋に嬉しかった。当たり前のことだが、一本一本、死ぬ気でやろうと強く思った。機材を搬出し、コンビニで飯を買ってホテルで食べた。風呂に入りこの日iPhoneで撮ってもらっていたライブ動画をベッドの上で確認していたら寝落ちしていた。今日は高松。なんの変哲も無い水曜日、奈良の同級生たちはおそらく働いている。大学の友だちたちは子どもたちに授業をしている。バイト先の居酒屋の店長は出勤時間ギリギリまでたぶん寝ている。おれは高松でドラムを叩く。見に来てくれる人がいる。今日も一生懸命、ドラムを叩く。