goodbye,youth

増子央人

2018.03.18

レコーディングが昨日終わった。今日はスタジオが終わって、京都へ向かった。何回も行った京都は、帰り道少し飲み足りず、駅のコンビニで缶ビールを買って各駅停車に乗った。今は電車に揺られながらビールを飲んでこれを書いている。

毎日通る駅までの道に、道路際の家の庭からはみ出るほどの桜の木があった。1ヶ月ほど前、いつものように駅まで原付で向かっていると、いつもあるはずの場所にその木はなかった。ちょうどその家は信号の隣にあって、赤信号で止まる度に左上からこぼれてくるその家の桜に、もう何年も目を奪われていた。その桜の木が突然なくなった。その家の庭がすっきりしていたから、恐らく庭師の人に切られたんだろう。おれは今年もその木に桜が咲くのを楽しみにしていた。少し背の高い車が横切ると、風で桜の花びらが空を舞う、あの瞬間がとても綺麗で、桜は基本的に弱くて儚いが、あそこの桜は特別に儚く感じた。最近はその交差点での信号の待ち時間がいつもより長く感じる。

 

 

 

 

2018.03.10

庭の桜が咲いていた。蜜蜂が桜の蜜を取っていた。気温は先週よりぐっと下がっている。天気は良い。またDROP CLOCKのスタジオに寝坊してしまった。怒られないのを良いことに、月に二、三回しかないスタジオなのに最近寝坊続きだ。交通手段が電車の場合、どれだけおれが急いでも到着時間は変わらない。逆に気が楽だ。天気が良いから、遅刻しているのに気持ちはのんびりしている。電車の中、ドアの窓から日差しが差し込んで外の気温を感じないまま体が温かくなる。この感覚がとても好きだ。広い平城宮跡が窓の向こうに見える。まだ桜が咲いていないから少し殺風景だが、桜が咲くと凄く綺麗なんだ。ここからの景色も好きだ。この景色を見るときは余計なことを考えないで済む。ここの前を通る少しの時間だけは綺麗な景色だけで頭の中がいっぱいになる。あ、駅に着いた。そうだ遅刻していたんだった。

2018.03.01

風がとても強い。雲の流れが速い。頬にぶつかる風はやっぱりいつもより冷たくない。朝から少し電車が遅れているけど、その分だけ音楽を聴けるからまあいいや。アナウンスが何か大切なことを言っている気がするけど、音楽を聴いているせいで何も聞こえない。もうなんでもいいや。今朝の朝焼けがとても綺麗で、昨日は月がとても綺麗で、この前読んだ本がとても綺麗で、この前聴いたあいつらの新譜がとても綺麗だった。今朝は向かいの家のはなちゃんと会えたよとか、クッキーは犬小屋で寝てたよとか、ゴールデンレトリバー二匹も散歩してる人がいたよとか、駐車場で気持ちよさそうに猫が寝ていたよとか、日常の景色がいつも以上に目に付く。あ、電車が来た。よかった。

 

 

 

2018.02.28

今日であの子と会えるのは最後かぁ。あいつ今日めっちゃワックスつけてへん?おい体育のあの先生泣いてるやんやば!明日から髪の毛染めたろ〜。あの子結局大学どこ行くんやろな〜。おいもうあいつ涙目なってるで。…なんやかんや寂しいなぁ。

卒業式の朝は卒業ソングを聞いていた。あぁ卒業かぁという感情に浸れるだけ浸っていた。浸りたいときは、浸れるだけ浸っていいんだと思う。目の前を赤い近鉄電車がもう何本も通り過ぎていく。今日は各駅停車に乗りたい。もういよいよ暖かくなってきた。3年前のこの時期のことをよく覚えてる。バイト前、少し早めに家を出て咲きかけの桜をなら100年会館の前のベンチで見ていた。あのベンチによく座っていた。バイト終わりには、よく缶ビールを買って駅で最終電車を待つ間に飲んでいた。夏になって好きだった人と付き合えて、バイト終わりに缶ビールを買うことはしなくなった。家を出ると不安そうに春が来ていた。冷たくて綺麗な冬が終わった。

 

 

2018.02.24

横浜でのライブが終わって、機材車は夜の高速を走っている。奈良に帰っている。家には確か母さんが東京出張でしばらく帰らないからと鍋いっぱいに作ってくれたカレーがあった。明日の朝はカレーを食べよう。おれは奈良の家で母さんと二人暮らしをしている。母さんは、みんながいたときの癖なのか、未だに料理を作るときは10人分ぐらいの量を作ってしまう。二人じゃ食べきるのに何日もかかってしまうのに、いつも作りすぎてしまう。なんでこんな話になったんだっけ、あ、そうかカレーか。そうそう、明日はカレーを食べよう。トンネルの上にくっ付いてるライトをよく数えていた。数え切れたことはない。

快晴の青空が人の心を浄化して、音楽が人の心を溶かして、人の言葉が人の心を動かして、誰かを大切に思って、譲れないものを心に1つ持って、疲れたときはコンビニで少し贅沢をして、走って止まって、靴が破れたら新しい靴を買って、雨にも負けず、風にも負けず、雪ニモ夏ノ暑サニモ…。そういう風に生きることができたらいいなと思う。

 

 

 

2018.02.16

この前、LONEのワンマンライブを見に行った。ライブを見て、あの日のことをどうしても書きたくなったので、ここに書くことにした。

まだ手を振るすら出していなかった3年前の夏、ピアノガールとAge Factoryで全国ツアーをした。バンドが全国ツアーに行くときは、CDリリースをしてそのリリースツアーという形で全国を回る、というのが多い。そのときはAge Factoryもピアノガールも何のCDも出していなかったが、ただ武者修行のように、全国19カ所でライブをした。その九州、中国地方編でLONEが合流して、3バンドで4日間ツアーを回った。あの日々のことはなんだか不思議で、思い出したら、もう3年前のことだから、やっぱり昨日のことのようには思い出されないけど、ずっとあのときの感覚は覚えてる。とても青臭い話。

山口でライブをしたおれたちは、その日はハコで打ち上げをした。いつものように馬鹿騒ぎして浴びるように酒を飲んだ。確かよなにーくんとたけやくんがその日誕生日で、(2人は誕生日が同じ日だった、たぶん)ケーキを誰かが買ってきて、よなにーくんだけ顔面ケーキをくらっていた気がする。腹が千切れるほど笑って、打ち上げが終わって、次の日もライブだったので車に乗って次の日の県に向かう予定だったが、誰かが海に行こう!と言い出して、夜中2時ぐらいに山口の海へ向かった。おれは海へ行くまで機材車で寝ていた。しばらくしてピアノガールのスタッフのあおいちゃんが起こしに来てくれた。寝ていたので気付かなかったがどうやらすでに海に着いてから30分ぐらい経っていたようだった。あおいちゃんに連れられて暗い砂浜を歩いていくと奥の暗闇から波の音と笑い声が聞こえてきた。みんな元気すぎひん?とおれは眠たかったのもあり少しテンションが低かった。だんだん暗闇に目が慣れてきた。浜辺で遊んでいるみんなをよく見ると、服を着ていなかった。完全な全裸だった。寝起きのおれにはきついテンションだった。そして永田くんが恥ずかしがってパンツだけ履いていたのが見えた。すると確か毛利くんと秋くんが全力で永田くんのパンツを脱がしに行った。そしておれ以外の全員が完全に全裸になった。もちろん女性陣は服を着ていた。おれは毛利くんと目が合った瞬間に状況を察知し、静かに1人で服を脱いで全裸になった。もう恥ずかしいものなんて何もない。そこからはもう無茶苦茶だった。全裸の男11人で騎馬戦をしたり人間ピラミッドを作ってみたり、もうクタクタになるまで遊んだ。一通り遊んだあと、みんなでコンビニで買ってきた手持ち花火をした。花火をしながら、どんな話をしたかはあまり覚えていない。バカな話ばかりしていたと思う。ちなみに花火をするときはさすがにもうみんな服を着ていた。毛利くんとひろきくんは、途中でまた海に入ってゲラゲラ笑いながら泳いでいた。元気やなーと思いながらおれは余った線香花火に火をつけてぼーっとしていた。ひろゆきくんと秋くんは、砂浜に繋がる階段で日が昇るまで話をしていた。あの2人は仲が良いんだ。みんなが疲れて車に戻ろうとしたときも、2人はまだ階段で話をしていた。何の話をしていたかは知らないけど、なんとなく、2人だけの方がいいんだろうなと思って、そこへは行かなかった。おれは秋くんと話をしているときのひろゆきくんと、ひろゆきくんと話をしているときの秋くんが好きだ。

なんだかあの日のこと自体が、大好きな2バンドとがむしゃらにライブをして色んな場所に行ったあの日々のこと自体が、おれにとっては線香花火のようで、キラキラと輝いていて、まだ火は落ちていないんだ。あの日からまだずっと、キラキラと輝いていて、きっといつか火が落ちてしまうときが来るんだろうけど、今はまだ、火花を散らして小さく華やかに燃えているんだ。

そのツアーが終わって奈良に帰ってから、えーすけが新しい曲を書いた。グリーングリーンという曲だ。おれはその曲がAge Factoryの中で一番好きだ。

僕達はそれを青春と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

2018.02.09

暖房の匂いで少し酔いそうになる。高速道路を走っている。相変わらずなおてぃが黙々と運転をしてくれている。えーすけは一番後ろの席でイヤホンをつけてお笑いの動画を見て笑っている。おれは足を伸ばして寝れるスペースをせっせと作ってそこに横になりながら文字を打っている。

昨日「妻に捧げた1778話」という本を読んだ。涙無しでは読めないと少し前にテレビで紹介されていて気になっていたので本屋さんで買ってすぐに読んだのだが、最後まで読んでも泣かなかった。感動こそしたが、おれにはまだ少し読むのが早かった気がした。読み終えたので途中まで読んでいた太宰治の「津軽」に戻ってきた。一丁前に津軽なんて読んでいるが、正直まだあんまり面白さを分かっていない。だから読んでいる途中なのに他の本に浮気したりしている。本を読みたいと思ってから、例えば音楽をする者がビートルズを聞いたことがないなんて言えば、あれ、こいつ偽物なんじゃないか?と少し疑ってしまうように、(これはただのおれの浅はかな猜疑心だと思う)日本の有名な文学を全く知らないことはダメなことなんじゃないかと思い、まずは昔の有名な文学作品を読んでみようと、夏目漱石のこころを読んでみた。結果半分も読まずに挫折してしまった。さっぱり面白さが分からない上に昔の言葉遣いがまるで古典の勉強をしているかのような気持ちになって嫌になってしまった。そのことを本が好きな友だち(pollyの越雲龍馬)に話すと、「夏目漱石は確かにちょっと難しいよ。太宰治の方がまだわかりやすくて面白いと思うよ。」と言われ、あ、やっぱり夏目漱石は難しいんか、よかった、と、自分はまるで文学の良さを理解できない猿なのではないかという不安が解消されたのを覚えてる。そしておれは龍馬に言われたまま太宰治の「人間失格」を買って読んでみた。スルスルと読めたし、古典のような言葉遣いもほとんどなかったし、とても面白かった。一冊ですっかり太宰治の素晴らしさに取り憑かれたような気になった。そしておれはもっと彼の文章を頭に取り入れたいと思い、古本屋でワクワクしながら「斜陽」と「津軽」を買って、今「津軽」を読んでいる。読む前は、これを読んで太宰治ワールドにどっぷり浸ろう、一体彼はどんな文章を書くんだろうとドキドキしていたが、実際の、津軽を読んでいるときのおれの心境は、"はぁ〜早くこれ終わらんかな〜次に行きたいねんけどな〜あれまだこんだけしか進んでへんやん、ねむ"だ。まあせっかく買ったので最後まで読もうとは思う。読み切ると何か面白さに気付くかもしれない。まったく気付かないかもしれない。