goodbye,youth

増子央人

2017.07.18

連日のライブがひと段落した。奈良へ帰る車内はいつも通り会話はなく、各々が各々の過ごし方をしている。険悪な空気ではない。居心地は割といい。窓から見える工場夜景はとても綺麗で、今日もあの光の数だけ誰かが働いていると思うと気が引き締まる気もするし、どうでもいいなとも思う。あの光は幻想的で生活的で、とても眩しい。東京タワーを初めて近くまで見にいったとき、あまりの大きさに圧倒された。333mの話ではない。あれを建てるためにどれだけの人の本気があったのか、この光にどれだけの人が想いを馳せたのか、おれには想像もできなかった。ただその大きさを感じることはできた。東京タワーの光はとても特別だった。奈良に帰り少し休んで、また4日後には東京へ行く。機材と夢を乗せたバンドワゴンは走り続ける。ヘッドライトは前しか照らせない。

 

 

 

 

2017.07.08

翔太が持ってくるコピーの候補曲はいつもRADWIMPSだけだった。屈託の無い笑顔でこの曲やりたいんやけど!といつも提案してきた。ラッドの曲はドラムが難しく、出来ないことが悔しくて完コピできるまで練習した。朝練前、翔太が貸してくれたラッドのライブDVDをごはん食べながら見ていた。蛍をコピーしたとき、翔太がスタジオで「増子のドラムはなんかキラキラしてるなぁ。なんかようわからんけどキラキラしてるわ。」とまた屈託の無い笑顔で言ってくれた。ドラムがキラキラしてるなんて表現は初めて聞いたしあまりピンと来なかったけど、とても良い気分になったのは覚えてる。ある日教室に入ってきた翔太が興奮しながら「さっきびっくりするぐらい綺麗な一本糞出てんけど!めっちゃ長いの!!やばない!?めちゃおもろない!?」と言ってずっと爆笑してたときはおれはこいつと笑いのツボが合うことは一生ないんだろうなと思った。2017年7月8日京都大作戦で初めてRADWIMPSと同じ日にフェスに出演した。ライブを生で見るのも初めてだった。裏のケータリングスペースで洋次郎さんに話しかけた。緊張で何を話ししたかあまり覚えていない。この日は昔のことをよく思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

2017.07.03

暑さで目が覚めた。汗ばんだTシャツに少しイラっとして無意識のまま扇風機をつけた。そのまま二度寝した。また暑さで目が覚めた。外から蝉の鳴き声が聞こえてくる。昨日遠くの空に入道雲を見た。最近は夜ですらあまり涼しくない。自転車をこぐと決まって汗だくになる。おれが通っていた中学校にはプールがあって、夏になると体育は水泳になった。クラスの可愛いグループの女子たちはほぼ毎回生理だと言ってプールに入らなかった。当時おれが好きだった女の子が、クロールで息継ぎをする瞬間の顔があまりにも不細工でショックを受けたのを覚えてる。プールのあとの授業はほとんど寝ていた。あのときの教室の匂いが好きだった。遠くに見える真っ白な入道雲は青い空を突き抜けた。隣の家から風鈴の音が聞こえる。夏めいた空気は少し鬱陶しい。

 

 

2017.06.28

少し歩くと、ビルの中にローソンがあったのでおにぎりとLチキを買ってイートインスペースでそれらを食べた。仙台の夜は少し涼しい。半袖じゃ寒いくらいだ。自分の人生はとことん自己中になっていい。従うにも意志は持っていい。昔のバイト先のおれの大好きな上司は、部下の陰口を部下の前で絶対に言わなかった。酒の席では他人の不平不満ではなく、未来の話しかしなかった。従うんじゃなく、この人のために働きたいって初めて思った。人前でキレること、イライラすること、それらはすべてそいつの器のデカさだ。器が小さいやつはよくイライラしている。その人がイライラしている様はほとんど見たことがなかった。

 

 

 

2017.06.26

天気予報士は梅雨入りしたと言っていたのに、あれから雨は恐らく1日しか降っていない。降るか降らないのかよくわからない灰色の天気が続く。休みの日の靴紐は緩い。誰とも会わない日は髭を剃らない。バスの窓から外を見ていると生い茂った新緑の木々が目に飛び込んできた。最近まるで会っていない、父のことをふと思い出した。仕事の帰り道、革靴を片方失くして帰ってきた父は母に怒られていた。申し訳なさそうに、カブト虫を捕れなかったことをおれに謝ってきた。ある日偶然父が道にいたカブト虫を捕って帰ってきたとき、おれが大喜びしたからそれからほぼ毎日カブト虫を捕って帰ってきた。父は帰り道、車を止め生い茂る木々に自分の靴を投げつけカブト虫を捕っていたらしい。その日は投げた靴が木にひっかかり捕れなくなったと言っていた。父がそんなことまでしてカブト虫を捕ってくれていたのかと、幼い頃のおれには衝撃的だった。その日の父の顔は今でも鮮明に思い出せる。綺麗に光る思い出のその玉は、たまに強く輝いて、暗い道を照らしてくれる。

2017.06.23

朝起きて、タレントの小林麻央さんが亡くなったことをニュースで知った。たまにブログを読んでいた。30代前半、子供を産んですぐガンになるなんて、もしおれならとても卑屈になり人生に絶望して、頭の中で悲劇のヒロインになってしまうと思う。それなのに、そんな状況にもかかわらずただただ前向きで明るい彼女のブログは衝撃的だった。最近は読んでいなかった。亡くなったことを聞いてすぐにブログへアクセスした。意識がなくなる前日までブログを更新していた。最後の記事も、いつも通り、些細な日常の幸せを感じる明るい記事だった。こんな人がいるのかと思うほど、明るく前向きな人で、出会ったこともないおれにはまったく関係のない人なのに、朝のニュースはとても悲しかった。おれはあのブログを読んでいるとき、最後にはガンは治って、家族とずっと幸せに暮らすんだろうなと勝手に思い込んでいた。ハッピーエンドの映画を見ているつもりだった。あまりの唐突な死の知らせに、悲しくなり、でも夜になるとその気持ちは少し薄れて、晩御飯のことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017.06.21

用事があったので東京に1人残り、夜行バスに揺られて帰ってきた。梅田に降りると雨が降っていた。バスで首を寝違えた。薄いタオルケットは少し寒かった。冷えた体に雨が染み込んだ。通勤ラッシュ、スーツの大人たちに紛れて昨日から着替えていない汗臭いTシャツのおれは逆方向へ帰る。電車の向かいの窓に映る自分の顔は酷くくたびれていた。赤い近鉄電車から見える石切の景色は今日は霧で見えなかった。