goodbye,youth

増子央人

2022.12.08

川崎へ向かう機材車の中、後部座席で昨日の大阪のライブ動画を見返しながら寝落ちしていた。数年前、手を振るやNOHARAをリリースしたときのライブは思い返せば、楽しさよりも怒りのような感情の方が強かった。一体何に対して怒っていたのか、何も伝わっていないかもしれないというもどかしさ、漠然とした不安、ダサい奴らへの苛立ち、そういうものがどこに行っても付き纏っていて、それでも根拠のない自信だけが常にあった。あの頃の曲を久しぶりにみんなの前でやって、あの頃とまったく違う景色を見て、昔のことを思い出すというよりも、全く違う新しい感情が芽生えた。あの頃の音楽も時間が経って前に進んでいて、誰かの中ですくすくと育っていて、不思議な気持ちになった。みんなの表情が嬉しかった。

昔、実家の近所にモータープールがあり、駐車場の奥に泳げる場所があるんだと思い探したがどこにもプールらしきものはなく、蝉時雨の中立ち尽くしたことがある。少し経ってからモータープールでは泳げないということを知り、悲しくなった。そういう出来事はそのときの景色といっしょに脳味噌に強く絡まっていて、いつまで経っても昨日のことのように思い出せる。試合で初めてフリースローを決めたときや、初めて見た先生のドラムソロ、完成した手を振るをなら100年会館の階段で聞いたとき、他にもたくさん、そういう体験が大人になっても増えていけばいいなと思う。このツアーの一本一本も誰かにとってきっと忘れられない日になる。

寝ていたら海が見えるサービスエリアに止まっていて、車から降りると昼間よりはるかに冷えていた。当たり前のように流れていく日々のことは基本的に忘れていってしまうので、もう今年の夏の暑さのことを思い出せない。