goodbye,youth

増子央人

2021.09.26

機材車は名古屋を通過し東京へ向かっている。小学生の頃は、高速道路のトンネルを通過するときいつも、トンネルの上にへばりついているライトの数を必死になって数えていた。トンネルを通過するとソニックやマリオや仮面ライダーのようなキャラクターが車と並走しているのを想像しながら窓の外を眺めていた。

29歳になった9月24日の朝、役者を目指している昔のバイト先の後輩からLINEが来ていた。上京することにしました、と書かれていた。初めて出会ったとき彼は、大学の医学部に入るための浪人生だった。父親が医者で、自分も医者になるため浪人していると言っていた。浪人生が居酒屋のアルバイトを始めるのはどうなのかと思ったが、まあ色々あるんだろうと思い特に気にしていなかった。いつからか、彼は浪人生をやめて、役者を目指したいと話すようになっていた。出会ってからもそれまでの話からも、役者のやの字も浮かんでこなかった彼から出てきたその言葉に説得力は無く、最初は、きっと浪人に疲れたんだろう、ぐらいに思った。自分と境遇は違ったが、教師を目指していた7年前、大学の授業についていけず、単位も取れず、勉強も大学も将来のことも全部にうんざりしていたとき、Age Factoryに入ってCDをリリースすることが決まり、大学を辞める理由ができたことに喜んでいた自分と、彼が少しだけ重なった。いいぞ!やりたいことやるのがいいに決まってる!走り出す理由なんてなんでもいい!周りの目なんて気にするな!自分に言い聞かせるように、彼に思っていた。成功してほしいと心底思った。お互いバイト先が変わってからも、何度か飲みに行った。何年か前に飲みに行ったとき、彼は初舞台の日の話を嬉しそうに話していた。

彼の上京の連絡から始まった誕生日は、夜に奈良ネバーランドへ行きえーすけの弾き語りを観に行った。楽しそうに歌っていた。えーすけはステージ上での顔つきが昔から随分変わった。本当に楽しいんだろうなと思った。うーわおれ誕生日に自分のバンドのボーカルの弾き語り観てるやんやっば、とも思ったが、良い日だった。