goodbye,youth

増子央人

2021.06.06

東京、山梨でのライブを2本終え、少し雪の溶けた富士山を横目に機材車は奈良まで帰る。袖や客席でライブを見たり、ケータリングを食べすぎて苦しくなったり、ステージから見えるお客さんの表情や久しぶりに観るバンドの言葉に感動したり、疲れたまま機材車に乗り込んで奈良まで帰ったり、座ったままいつの間にか寝て汗をかいたり、全部が久しぶりだった。Age Factoryのライブ中、前列の方で涙を流している人がいた。マスクをしていてもわかるほどの笑顔でライブを見てくれている人たちもいた。沢山いた。みんなのあの表情を見ることがとても好きだったんだと、今日再確認した。みんなのライブを見て、ロックバンドはこんなにもカッコいいんだってことも、再確認した。ライブに遊びに行くこと周りに内緒にしなければいけなかったり、ライブに行ったあと何日かは誰にも会わないように予定を空けたりしている人たちもいると思う。色んなことを考えながら、こんな時代にわざわざ足を運んでライブを見に来ている、おれはそんな人たちが大好きだ。ずっと我慢している人たちも、すげーと思う。どちらが間違ってるとか、そんな話じゃない。

ロックバンドの音楽すべてが消費されないわけではないけれど、消費されない音楽が本当のロックバンドの音楽なんだと思う。誰か1人でも大切に聴いてくれたり見に来てくれたりする人がいるのなら、そんなに価値のあることはない。今日会場にいた人全員がどうか無事で、健康に幸せに生きてほしいと思った。この前えーすけは、最近ずっと空(くう)にパンチしてるような気分やわ、と言っていた。たぶん、そんなことなかった。それがわかっただけでも、ライブをした意味があった。ちゃんと届いていた。あの男の人の泣き顔も、みんなの笑顔も、ロックバンドの言葉も、おれは忘れたくない。

ライブが終わってから駐車場へ行くと、蝉が鳴いていた。雨が上がって陽が差して、確かに暑かった。夕方になると急に涼しくなって蝉の鳴き声はピタリと止まっていたので、あいつらはたぶん夏が来たと勘違いしてた。いいなと思った。始まるきっかけなんか勘違いでもなんでもいい。

夜の高速を抜けて、機材車はもう少しで奈良に着く。