goodbye,youth

増子央人

2021.05.10

夜、駐輪場の前を一頭の鹿が歩いていた。去年から観光客が減って、奈良公園若草山の鹿が街まで降りてきている。鹿はこちらに気が付いても特に逃げる様子もなく、とぼとぼと坂を登っていった。何となく後をつけると、たまにこちらを振り返りながら早歩きで逃げていった。

昼、起きてから顔を洗ってベランダに出るとどこかからジーーーっと音がした。蝉の鳴き声のように聴こえたがまだ5月なのでそんなわけはなく、たぶん何処かの工事の音だろうと思い、音のなる場所を探したが見つからなかったので、蝉の音だと思い込むことにした。風が涼しくて、今年の夏はこのぐらいの気温ならいいのにな、と思った。

先日の夕陽は紫色だった。昼間、飛行機雲が平行に3本並んでいた。アパートを出るとてんとう虫がぐちゃぐちゃに潰れて死んでいた。秋くんと次に会うときまで交換した黒革のブレスレットはおれにはやっぱり全然似合わなくて交換したことを後悔した。よく行く蕎麦屋の店員が何も言わなくても蕎麦のわさびを抜いといてくれるようになった。一昨日初めて朝の3時までテレビゲームをした。またライブがなくなった。

ぐちゃぐちゃになって、もみくちゃになって、そういうライブハウスにはもう二度と戻れへんのかもしれん、それ考えると怖いし、辛い。と先輩が話していた。あんな先輩、初めて見た。そんなことない!とも思えなかったし、そうかもしんないですね…としか言えなかった。

いつかまたあの景色を見てみたい。みんなの声を聞いて、体の揺れを感じて、表情を直接見たい。そして自分にとってのそのことの大切さを確かめたい。