goodbye,youth

増子央人

2020.08.29

少し前にベランダの向日葵が咲いた。不揃いながらもすべての蕾が太陽に向かって開いていた。間引きしなかったせいで全滅するかもしれないと思っていたので綺麗な黄色を見たときは嬉しかった。しかし5日も経つと花は枯れて、小さくしおれていた。痩せこけて茶色くなった茎に、カナブンが止まっていた。何に対してかよくわからないけど、生命の神秘を感じた。

今まで自分1人で花を育てたことがなかったので、間引きという行為の存在すら知らなかった。種を買った時に付いてきた説明書には「葉が大きくなってきたら間引きをして」と書いているだけで、間引きがどういう行為なのかは書いていなかったので、まあ文字の意味からなんとなく予想はできたが、一応ネットで調べた。間引きがどういう行為か理解できたがどの角度から解釈しようとしても気分が良いものではなかった。日頃から植物を育てているような方たちからすれば、何を甘いことを言っているんだ、というようなことなんだろうと思いながらも、全然受け入れることができなかった。結局3日ぐらい決断できずに放置していたが、どの芽も切らずに水やりを続けた。数日経つと、不揃いな大きさの花がすべての蕾から咲いた。本当に良かったと思った。しかし不思議なもので、花が咲くと途端に興味が薄れて、ベランダの窓を開けて水を少しあげるという行為の面倒くささレベルが物凄い勢いで上がり、花が咲いて2日も経つと水やりをやめていた。クーラーの効いた涼しい部屋のソファに座って窓の外で痩せこけていく向日葵を眺めていた。誰も死んでほしくないなんて思っていたおれはどこに?でも自分の気持ちの変化にはあまり驚かなかった。

今年の八月の思い出といえば向日葵が咲いたことぐらいで、こんなに何も起きずに終わろうとしている八月はいつぶりだろう。蝉が死んで、向日葵が枯れて、八月がもうすぐ終わる。

先日EVERYNIGHTツアーの中止が発表された。各地でのツアー、対バン、打ち上げ、初めて訪れた町を好きになる感覚、ステージから見えるみんなの表情、ライブ中の高揚感、どんな感じだったか、きっと一度やれば全部思い出すんだろうけど、今はちゃんと思い出せない。やれなくなってちゃんとわかった。あれが好きだった。また会える日までダラダラと生きてるので、みんなもどうかその日まで元気で。