goodbye,youth

増子央人

2020.06.27

マスクをつけたピエロが駅前でパフォーマンスをしていた。周りの人たちはそれを離れた場所から横目で見る程度で、ちゃんと見ている人はいないようだった。少し経ってから1人の男の子がピエロの目の前まで近付いて、コミカルな動きをじっと見つめていた。ピエロは風船で剣を作って、男の子に手渡した。男の子は嬉しそうに笑いながら剣を振り回して、近くで見ていた母親の元へ走って行った。目の前にいる人に向けられた全力のパフォーマンスを久しぶりに見た気がして、それがあまりにも尊くて、酷く感動した。やっぱり、あれは何にも変えられない。この先どれだけ映像技術が発達しても、それが空間を共有することの価値を補うだけのものには成り得ないんだと、改めて思った。それらはまったく別物なので、それぞれの代わりにはならない。

昨日外を歩いていると、スーパーの前に置かれた自転車の横で、下を見ながら右手の指でサドルを弾いている女の人を見た。イヤホンをつけていた。指の動きから、ピアノの練習をしているように見えた。その場からじっと動かず、指だけがサドルを弾き続けていた。集中していたのかただボーッとしていたのかわからなかったが、手元を見るでもなく、空間の匿名的な一点を見つめる目が印象的だった。駅前では数人が輪になって体を揺らしながらフリースタイルをしていた。おれはコンビニで買ったスイカバーを食べながらその前を通った。イヤホンから大好きなJimi Somewhereが流れていた。みんな音楽のことを考えていた。久しぶりに食べたスイカバーは食べ切るより先に溶け出してしまった。スイカバーってこんなでかかったっけ。