goodbye,youth

増子央人

2020.06.17

ハヌマーンばかり聴いていた先週の火曜日、天気予報が明日から雨だと言っていたのでホタルを探しに行った。原付で夜の町を走った。町からカブトムシの匂いがした。正確には、カブトムシがいそうな木の匂いがした。半袖で受けた風が少し冷たかった。原付を止めて歩いていると、小川の近くで数匹のホタルを見つけた。闇に浮かぶ小さな光はハッキリと見えているのに動画にはほとんど映らなかった。何度見ても神秘的なあの光を、手に入らないから美しいとわかっているのに、いつも持って帰りたいと思ってしまう。公園の中にあるその場所は人に管理されていて、ホタルがいる場所には近づけないようにロープが張られていた。見に来ている地元の人も何人かいた。帰り道、どこか別の、自分だけが知っているようなホタルが出る場所を見つけたいと思い、色んな道を寄り道したがホタルはどこにもいなかった。別に持って帰るわけでもないのに、この手の中で、より近い場所であの光を見たいと思ってしまった。遠くからでも充分なのに。草についた雨粒が月明かりに反射して放つ光や遠くの小さな家の明かりを何度もホタルの光と勘違いした。

その前の日の昼、水田を泳ぐカブトエビを見つけた。それを見て思い出すのはやっぱり小学生の頃捕まえた大量のカブトエビをペットボトルに入れて持って帰ろうとしていた内山のことだった。その水田は太陽の光を反射してキラキラと光っていた。海みたいだった。初夏の田んぼがこんなに綺麗に見えたのも、田んぼ以外の何かに見えたのも初めてだった。

今日は家の近くの横断歩道で大学時代の同級生と会った。今高校の先生をしているそいつは、大学時代に付き合っていた彼女と結婚して、子どもができて、最近マイホームを購入したと言っていた。久しぶりに話したそいつは当時から何も変わっていなかったが、もう随分、遠くの人のように感じた。