goodbye,youth

増子央人

2020.05.29

いつもの坂道を原付で登った。ガソリンはもうほとんど残っていなかった。近くにガソリンスタンドあったっけ、突然不安になった。まあいいか、切れたら押して帰ろう。

小学2年生の頃、分団登校の班長をしていた6年生の翼くんが近所に住んでいた。その頃の翼くんは遊戯王のレアカードを沢山持っていたし、ベイブレードは強かったし、足は速かった。おれから見た翼くんはもう充分に大人だった。ある日、翼くんはギア6のままの自転車で、家の前にある長くて急な坂道を登り切った。おれはすぐ近所に住んでいた友だちと毎日、どっちの方が速くその坂を自転車で登り切れるかの勝負をしていた。おれたちはギア2でなんとか登り切ることができる程度だったのに、一番重たい6で?信じられなかったが、あの一漕ぎでの進み方は、間違いなくギア6だった。その日からおれたちの中で翼くんは、何でもできるお兄ちゃんから、憧れのスーパーヒーローのような存在になった。あの坂を今見たらどう思うのだろう。少し気になった。

右手を捻って簡単に坂を登り切ったあと、少し走ったところにガソリンスタンドがあったのでそこでガソリンを入れた。コンビニに寄って、ゆで卵と蒸し鶏の入ったサラダとおにぎりを2つ買った。家までの帰り道にあるいつもの田んぼは土が耕されて綺麗に整えられていた。家に着いてからさっきの田んぼが今どういう状態なのか気になってネットで調べてみると、田植えの前の代掻きという工程が終わったところだった。このあと田んぼに水が張られて、田植えが始まり、秋にはまた金色の稲が見られる。今年はもっとよく観察しておこうと思った。こんな身近にある綺麗なものをできるだけ見逃したくない。