goodbye,youth

増子央人

2020.02.20

新宿、人だらけの街を歩きながら、昨夜録り終えた曲たちを聞いた。都会を歩いていると上の方に視線が行ってしまうが、すれ違う人たちの肩にぶつからないように前を見て歩いた。

数日前の夜、屋上から東京の夜景を見た。そこにはえーすけと、えーすけが一緒に飲んでいた友だちたちもいた。隙間なく立つ高層ビル群のせいで街の向こうはまるで見えなかった。奈良では高い場所から景色を見渡して向こう側の山が見えないなんてことはあり得ないので、見慣れない大都会の夜景にしばらく釘付けになった。増子くん、あの曲ができたのまさにここやで、ほらあの赤い目。えーすけが高層ビルを見ながら言った。そうか、ここがあの曲の場所なんだ。それを聞いてからその日ミックスを終えたばかりのその曲のメロディーが頭の中で流れて、無意識のうちに口ずさんでいた。その屋上から、東京タワーとスカイツリーが見えた。最初は誰も気付いていなくて、屋上に上がって数分後に東京タワーを見つけて、そのまた数分後にスカイツリーも見つけた。田舎者のおれたちは、東京にはそういう場所が以外と沢山あるということをそのとき知らなかったので、大興奮していた。世紀の大発見をしてしまった、この場所はとんでもない場所かもしれない、本気でそう思った。4人ともその場からしばらく動けず、東京タワーとスカイツリーを交互に何度も見た。そのあとみんなで少し話しながらまたしばらく周りを歩いたり、星空を見たりした。おれら、いつかとんでもなく売れると思うねんな。えーすけが突然言った。そのときおれを含めみんながどんな反応をしていたかちゃんと覚えていないが、その言葉は覚えている。無数の赤い目が瞬いて、その奥で東京タワーとスカイツリーが異質な光を放っていた。東京の真ん中に立っているような気になった。

夢を見ているのかもしれない、と思うときがある。突然目が覚めて、全部夢でしたよ、なんて誰かに言われても、あ、やっぱりそうでしたか、と言ってしまいそうな、そんなことを最近思う。

横浜B.B STREETで弾き語りのライブを終えたえーすけをなおてぃが運転する機材車で迎えに行き、今から奈良へ帰る。長かったレコーディングの日々が終わった。いつか必ず終わりが来るこの青い日々のことは、音楽になった。