goodbye,youth

増子央人

2020.01.27

コービー・ブライアントがヘリ墜落により死亡 同乗の13歳の娘も」朝、3度目のアラームを止めてベッドの上で寝ぼけながらTwitterを開くとそんな文章が目に飛び込んできた。一瞬で眠気が飛んだ。すぐにコービーで検索をかけた。本当に死んでいた。信じられなかった。中学生の頃、今より更に身長が低かったおれはやはりアイバーソンやネイトロビンソン、スティーブナッシュやジェイソンウィリアムス、トニーパーカーやジェイソンキッドのようなそれほど身長が高くないスター選手のプレイばかりYouTubeで見ていたが、心の中でどこかコービーのような選手に憧れていた。負けたくない、よりも、勝ちたいという気持ちの方が強かったあの頃の自分は、今よりもっと自分のことしか考えていなかった。何でも1人で完結させたいと思っていた。自分が上手くなれば、自分に圧倒的な技術があれば、他人に認められ、試合にも勝てると本気で思っていた。そんなおれに、彼の存在はあまりにも魅力的で、1人で1試合に81得点も取ってしまうあの圧倒的な得点力に、アキレス腱を断裂してもフリースローを決めたあの勝利への執念に、何度もブザービートでシュートを決めたあの土壇場での心の強さに、何度シュートを外しても入るまで打ち続けたあの自分を信じる力に、憧れていた。死んだ?あんなに強い人が?ヘリの墜落?13歳の娘も?しばらくベッドの上でiPhoneを触りながら何を見るでもなくボーッとしていたが、時計を見て慌てて飛び起きた。バイトに遅刻してしまう。顔を洗って寝癖を直し、歯を磨いて服を着替えて家を飛び出た。NBAのスター選手が死んだところで勿論おれの生活には何も影響しないが、それでもやはりこの日のバイト中はずっと、人が死ぬということについて考えていた。しかしやはり死んだことがないので様々な妄想による根拠のない仮説だけが頭の中で広がり結局何にもわからないままバイトを終え、スタジオへ向かった。

帰宅してすぐ手を洗ってうがいをし、イヤホンをつけたままソファに座ってiPhoneを触った。そういえば妹の誕生日がもうすぐだったな、とふと思い出した。面倒くさいけど連絡しよう、と思った。人はいつ死ぬかわからない。「生まれ方は選べないが、死に方は選べる。」以前読んだ小説にそう書いてあった。あれは嘘だな。選べない場合もある。確実に選べるのは、どう生きるかだけだと思った。スタジオで詰めた新曲を聞きながら昨日コンビニで買ってきたピーナッツチョコを食べた。スーパースターが死んだ夜も、ピーナッツチョコは美味しかった。