goodbye,youth

増子央人

2020.01.09

公園で散歩していた老夫婦に、この辺であの景色が一番綺麗に見える場所ありますか?と坂の下に広がる無機質な街の景色を指差して聞いてみた。どこやろなあ、駅の東側の方がやっぱりいいんちゃうかな。ちょっと歩くけど、若いから大丈夫やろ。と少し笑ってお爺さんが答えてくれた。おじいさんの言う通りの方角を目指して歩いてみた。とにかく坂が多い、というか、おそらく山の斜面に作られた街なので、基本的に坂だらけだった。少し歩いて山と反対側の景色を見るとあまりに綺麗で、景色を見るたびに嬉しくなった。本当はその駅を通り過ぎて隣の駅で降りる予定だったが、その駅からの景色が今日はあまりに綺麗で、特に時間に縛られた予定もなかったので、その駅で降りることにした。近鉄線で大阪から奈良まで帰る際に車窓から見える景色がとても好きでいつもここを通るときは見ていたが、降りたのは初めてだった。改札を出てから思い出したが、そこは父が15年前に働いていた街だった。初めて降りた街に、急に親近感が湧いた。

お爺さんが教えてくれた方向に歩いた先にあった、マンションの隣の小さな公園から見える景色がとても綺麗だった。大阪平野の景色を見ながら、しばらく考え事をしていた。しかし考えはいつも通り何もまとまらなかったので、帰ることにした。坂の多い街に住んだことはないので、勝手に住みにくそうなイメージを持っているが、たまに来るといいなと思う。長崎のStudio DO!というライブハウスがあった街も、坂が多くて好きだった。もうあのライブハウスは潰れてしまって、あの街に行くこともなくなったけど、たまに思い出す。確かメンバーとマネージャーとボロボロの中華料理屋に入って大失敗した。たまに思い出す。

スタジオによって少しドラムを叩き、家に帰って真っ先に缶ビールを開けた。2日前の絶望の朝、念仏のように酒をやめる酒をやめる酒をやめると唱えながら床の雑巾掛けをしていたのに、昨日あんなに我慢して酒を飲まなかったのに、何か大きなものを失ってしまう前にやめようと心に決めたはずだったのに、プルタブが缶に穴を開ける快音があっさりと短い禁酒生活に終わりを告げた。しょうもない。人なんてみんなどうせ何かに依存しながら生きてるんだよ、大丈夫。と昔見た映画の中の誰かの台詞を頭の中で念仏を唱えるように繰り返した。父に今日撮った写真でも送ってやろう、と思った。

 

 

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