goodbye,youth

増子央人

2019.12.25

小さい頃、一度だけ友だちの家でクリスマスを過ごした。絶対にサンタを見よう、だから今日は寝ないで起きておこう、そう言っていつもなら寝ている時間にテレビを見たりして2人で夜更かしをした。見たことない番組ばかりで、なんだかとてもいけないことをしている気持ちになったが、友だちと2人だったので、胸はどんどん高鳴っていった。友だちと悪いことを行うときはいつも、背徳感を胸の高鳴りが上回る。でも結局2人ともすぐに寝落ちして、朝起きると枕元にはちゃんとプレゼントが置いてあった。友だちの家でもちゃんとサンタさんが来た!と嬉しくなったのを覚えている。

夕方頃家に帰ってきて、バイト先で余った弁当の残りをレンジで温めて食べた。そのあと家を出て、電車でスタジオへ向かった。スタジオの最寄駅に着いて、いつもの宝くじ売り場へ行った。今日は当たる気がして、というか、今日ぐらい当たっていいだろう、それがサンタからのクリスマスプレゼントだろうと勝手に思い込み、スクラッチくじを2枚買った。2枚とも外れた。サンタなんていない。確信した。スタジオでミーティングを終えて帰宅。家に帰る前にいつもの松屋へ向かった。クリスマスだしいいかと思い、味噌汁を豚汁に変更した。出てきた豚汁が熱すぎてなかなか食べることができず、牛丼を食べ終えてからもしばらく待ってみたがなかなか冷めず、聖なる夜に松屋で豚汁が冷めるのを待っている自分にだんだん腹が立ってきて、一口だけ食べて残した。舌はもはや豚汁の味もほとんど感じず、残ったのは熱による舌への刺激と虚しさだけだった。ご馳走様でした、と言いながら食器返却口にお盆を返すと、ありがとうございました、といつものおばちゃんが笑顔で言った。なんだか申し訳ない気持ちになった。松屋を出ると近くのキャバクラから白いハットをかぶったおじさんと露出度の高いキャバ嬢が出てきた。白いハットのおじさんはキャバ嬢に強くハグをして、手を振りながら帰って行った。キャバ嬢は横にいたボーイに何か話しながら中に戻って行った。クリスマスにキャバクラに行っているおじさんも、クリスマスにキャバクラで働いている女も、哀れだな、と思いながら歩いて家まで帰った。豚汁を残したせいで心まで冷たくなっていた。家へ帰ると、昨日花屋で買った小さな造花の鉢植えと小さなアヒルの置物がアホみたいな顔してラッピングされたままリュックの横に転がっていた。ソファの回りの床の上をよく見ると昨日寝る前に飲もうとしたら咳き込んでぶちまけた粉薬が散らばっていた。School of RockのDVDジャケットの主人公が机の上から哀れそうな目でこちらを見ていた。そのDVDジャケットにも粉薬がかかっていた。まだ掃除する気になれない。