goodbye,youth

増子央人

2019.07.31

夜から朝まで付けっ放しのクーラーのせいでまるで酔っ払って鉛でも呑んだのかと思うほど身体が重たい。間違いない、きっと昨晩鉛を飲んだに違いない。最近居酒屋と掛け持ちで新しいバイトを始めた。子どもたちと関わっている。新しいことを始めるときはやはり心がリセットされたような気になり、知らない世界に触れた初日の夜は不安と期待が混合して夢にまで新しいバイト先が出てきた。つまりワクワクした。

7月が終わる。35度を超える日々が連日続き、やはりクーラーを消すタイミングは部屋を出るとき以外に考えられない。朝外を出ると世界中で鳴り響いているかのような蝉の鳴き声、オゾン層は完全に破壊され(そんな訳はない)太陽から直に届く日差し、ほぼ下着姿で歩く外国人観光客、スーツ姿で汗を拭きながら歩くサラリーマン。何匹のホタルがこの夏に命を落とし、何人のホームレスがこの夏に星になるのだろう。

気がつけばSNSのタイムラインばかり見ている、なんて時間の無駄だろうと思うが気がつけばまた見ている。そんなことよりあの雲が何の形に見えるか当てよう!その次はあの木から先に蝉を見つけることができたら勝ちのゲームをしよう。水筒には昨日母さんが作ってくれたレモネードが入ってるから大丈夫!そんで明日の朝はカブトムシを捕まえに行くから今日の夜に蜂蜜漬けにしたバナナを靴下に入れてあのおっきい木に仕掛けよう!たぶんいっぱい寄ってくるよ。そんでカキ氷を作る機械が家にあるから家に帰ってカキ氷を作ろう!カルピスの原液はあるけど、イチゴシロップと練乳はスーパーに買いに行こう!祭りの屋台のラムネは魔法の味がするから飲んでみ!金魚すくいもヨーヨーすくいも全部やろう。そんで夜は花火もするでしょ、もちろん線香花火も、そのあと近くに蛍が見える用水路があるからそこに行こう、凄いよあれはまるで星空の中にいるみたいに思うよ!プラネタリウムより綺麗だよきっと!全部父に教えてもらった。いつか子どもができたら教えてあげたい。そしてそのときにまた、永遠に終わらないでほしいと思っていたあの夏のことを思い出したい。