goodbye,youth

増子央人

2019.06.17

レコーディング初日、機材車は朝7時に奈良を出て山中湖へ向かった。移動中の空は暗く、雨が降り続いていた。13時半に山中湖の近くにあるレコーディングスタジオに到着した。森の中を進むとログハウスが並んでいて、そのうちの一つがレコーディングスタジオになっていた。秘密基地みたいで少しワクワクした。スタジオの中は天井が高く、ドラムの音がよく響きそうだった。ドラムテックの高田さんとドラムセットを組んで、えーすけとなおてぃも各々の機材をセッティングした。夕方前に録り出し、夜には予定していた曲数のベーシックを録り終え、ドラムの出番は終了した。夜が深くなるにつれ雨は次第に強くなり、周りの木々の葉に雨が打ち付けられて奈良の家にいるときよりも大きな雨音を感じた。このレコーディングスタジオはきのこ帝国がインディーズ時代に使っていた場所らしく、おれの好きなあのアルバムもあのアルバムも、この緑に囲まれたスタジオで録ったのか、と夜にビールを飲みながら思った。先日、きのこ帝国は活動休止を発表していた。解散ではないが、いつまでの休止なのかはわからない。最近、好きなバンドのボーカルが、音楽を辞めようと思っている、と言っていた。話してくれたときのその人の笑顔が少し引きつっていた気がした。もう疲れたんだ、とその笑顔が言っていた気もした。その後に彼らのライブを見て、あまりにカッコよくて、悲しくなった。この音楽が売れない世界線とは、一体何だ?そんな世界は、もういっそのこと滅んだ方がいいんじゃないのか?どうしてあの人があんなことを言わなくちゃいけない?良い音楽とは何だ?わからなくなったので、ビールを飲んだ。すべてのものごとは、始まった瞬間から終わりへ向かっていく。必ずいつか終わりが来る。終わりが来るまでの、短い永遠の間に夢を見る。

今日はレコーディング3日目、えーすけが歌録りをしている。6日前の6月11日、十三FANDANGOでの最後のライブの日、ライブ中にえーすけが突然、セットリストを変更して新曲をやりたいと言い出し、本来やる予定だったmillionをやめて、完成したばかりの新曲を初めて人前でやった。その曲を今えーすけが歌っている。これは何の示唆でもなく、ただ純粋に、歌詞とメロディーと声をブースで聴いて、その音楽に対して、不意に涙が出そうになった。友だちと暗くなるまで1on1をしていたあの日々のように、好きな人たちと好きな場所へ行き未完の音を鳴らして朝が来るまで飲み明かしたあの日々のように、この日々も勿論、いつか来る終わりへ向かって走っている。時計の針が壊れることはない。日々の生活に、そういう少しの虚しさは薄っすらと付き纏っている。最近そういうことをよく考える。新曲を聴いて、またそういうことを考えた。

ここの夜はとても静かで、レコーディングに関する音が鳴っていないときは外から何の音も聞こえてこない。陽が出ているうちは鳥のさえずりが聞こえてくる。それ以外の音はない。虫が多いというところ以外はとても良い場所だ。新しい音源の完成が待ち遠しい。