goodbye,youth

増子央人

2019.05.10

窓から見える夕方の奈良に桃色の西陽が差し込み、どこからかカラスの鳴き声が聞こえてきた。カァ、カァ、と、街に夕方を知らせている。近くの神社で鐘が鳴った。その鐘の音はまるでおれにしか聞こえていないような、隔離された、少し侘しい音だった。いつも通りバイトを終えてスタジオへ向かおうとしたら、近鉄電車が人身事故で止まっていた。河内小阪駅付近で誰かが線路に飛び込んで、線路の間にバラバラの物体が飛び散っていたらしい。大丸ビルの飛び降り自殺の時のように、目の前にいるこの人は線路に飛び込むだろうな、とわかっている状況なら、人々は、その人が飛び込む一部始終を何も言わずにスマホで撮影をするのだろうか、おれがその場にいればどうするんだろう、と無意味なことを考えていたら、40分遅れの難波行き準急がホームに到着した。The Get Up Kidsの新譜を聴きながらスタジオへ向かった。バラバラの物体。自殺。事故。SNS。自己承認欲求。波が太陽の光でチラチラと白く瞬くように、言葉が頭の中で浮いたり沈んだりしていた。

今日の金曜ロードショーは映画ではなかったらしい。華金を外で飲み明かすのも素晴らしいが、映画を見て夜更かしするのもとても好きだ。スタジオからの帰り道、最近ライブであまりしていない、Age Factoryのロードショーを久しぶりにApple Musicで聴いた。この曲のMVでえーすけが弾いているギターはLOSTAGEの拓人さんからたまたま借りたテレキャスで、そのテレキャスは拓人さんがbloodthirsty butchersの吉村さんにお前はテレキャスいいと思うと言われて買ったものらしく、そして偶然、えーすけがそのテレキャスを借りて撮影したロードショーのライブMVの公開日が2016年5月27日、吉村さんの没後3年目の命日だった。THROAT RECORDSで五味さんからその話を聞いて驚いたときのことを思い出していた。家に着いて、明日のCOMING KOBEの準備をした。シャワーを浴びて、コンビニで買ってきたおにぎりを食べて、ビールを飲んだ。テレビをつけると滋賀の大津で園児の列に車が突っ込んだ事故のニュースが流れていた。テレビを消してラジオをつけた。ソファに沈みながら、松原さんが生前書いていたブログを検索して読んでみた。人が死ぬことについて考えてみたが、すぐに眠たくなってしまったので、残っていたビールを流しに捨て、歯を磨いて寝た。