goodbye,youth

増子央人

2019.04.03

奈良では桜が咲き始めた。部屋で久しぶりにラジオをつけた。FM89.4、中学生の頃によく聞いていた、アルファーステーションのチャンネルに合わせた。求めていないのに流れては去っていく雲のように、エレファントカシマシの四月の風やoasisのDon't Look Back In Angerが流れていった。やはりラジオは良い。勝手に流れてきたメロディーがもし求めていたものだった場合、勝手に必然性を感じ、その曲がより好きになる。親と喧嘩をして飛び出た庭の隅で源太郎が舐めてくれたときに感じた、お前だけはわかってくれてるんだよな、というあの感覚が、ラジオにはある気がする。つまりもたれかかって良いのだという感覚が。なぜなら良くも悪くも向こうからの感情はないからだ。日々はただ、苛立ちとともに過ぎていく。北海道からの帰りのフェリーの上で、これからのことをたくさん考えた。帰りのフェリーは1人だった。驚く程気が楽で、体が軽かった。昔から、1人の時間はやはり、体と心の休息になる。長ければ長いほど嬉しい。1人の時間には、色んなことを考える。帰ってからの生活のこと、バイトのこと、スタジオのこと、国民健康保険のこと、自分のやりたいこと、好きなこと、嫌いなこと、奈良県のこと、東京のこと、行ったこともない外国のこと。考えているうちにフェリーは敦賀港に着いた。外は日が落ちて暗く、冷たい雨が降っていた。

ラジオからは京都の交通情報が流れてきた。おれには関係ない。パーソナリティの声はやはり雲のようにおれの頭上を流れていった。日々を、やりたいことを、やるべきことを、できるだけ楽しみながら、生きていたい。