goodbye,youth

増子央人

2019.03.28

船は自らが意志を持っているかのように日本海の上を転覆することなく北へ北へと進んでいる。もうかれこれ17時間ほど船の上にいる。窓からは北海道が見え出し、それと同時にiPhoneに電波が入った。少しだけSNSを見た。奈良から持ってきた村上春樹1Q84を昨日の晩から読んでいる。電波のない場所にくると、とても清々しい気持ちになる。体が軽くなり、iPhoneは外界と遮断された鉄の塊になり、自分は孤独であるということを再確認し、みんなも孤独であるということがわかり、仕方がないので小説を読もうと本を手に取る。気が散ることもなく、頭の中の世界は一つになる。窓の外では海が動いている。地球が息をしていることを感じる。船が揺れることで、地球の揺れを感じる。窓際にいるので、少しだけ外の冷たい空気が漏れて肌寒い。ずっと向こうに、奈良では見ることができない水平線が見える。あの向こうには本当に世界はあるのか?本当は地球は丸くなくて、あの向こうは崖になっていて、この大地は大きな亀と象が支えているのではないのか?と、昔の人は考えていたと、何かの本で読んだ。今は、そうではないと、地球は丸いとほぼ全ての人が知っている。なんてつまらないのだろう。君が何をしているか、インスタを見ればすぐにわかる。なんてつまらないのだろう。どうして海も空も青いのか、どうして月は落ちてこないのか、雲は何でできているのか、星はどうして光っているのか、恐竜ってなに?宇宙は一つしかないの?iPhoneで検索すれば全てわかる、もう昔のように父さんに聞く必要はない。なんてつまらないのだろう。