goodbye,youth

増子央人

2018.07.13

機材車は岩手に向かう。SiMとのツアーは半分が終わり残り2本。昨日は青森で朝4時まで飲んでいた。昨日というか今朝。ほぼ面識のないSiMがツアーに誘ってくれた経緯は、マキシマムザホルモンのりょうさんがSHOW-HATEさんにおれらの曲を教えてくれて、今年の5月のVIVA LA ROCKで同じ日の出演だったSiMがおれらのライブを見にきてくれて、今回のツアーに誘ってくれたらしい。嘘みたいな話だ。音楽が、音楽自身の力で、ちゃんと走り回っている。このツアーでのライブは勿論、完全なアウェイ。9割9分、SiMのお客さんしかいない。最善のお客さんに関しては、もうおれらの次に出てくるSiMのことしか考えていないというような顔でおれらのライブを見ていた。それでも少しずつ、会場が揺れていくのがわかった。初日の秋田、いつもライブに来てくれる福岡のお客さんの顔がステージから見えた。驚いたし、嬉しかった。ライブ終わり、おそらく同い年ぐらいの男の人が、サインを下さいとCDを持ってきてくれた。今日初めて見たんですが、CDを全部買いました、と笑顔で言っていた。来てよかったと、そのとき初めて思った。昨日の青森でのSiMのライブ中、KiLLiNG MEの途中のギターリフだけになるところで、SHOW-HATEさんが演奏をやめ、曲が止まった。ステージの上でMAHさんに何か耳打ちをした。ざわつく会場。MAHさんが、この続きからギター弾けるやついる?とお客さんに聞いた。歓声。手を挙げた1人の少年を、MAHさんがステージに上げた。大歓声。恐らく高校生ぐらいの、SiMのTシャツを着たその少年の肩に、SHOW-HATEさんがギターを預けた。少年がリフを弾き、ライブは再開された。少年は必死にギターを弾いていた。手を挙げたぐらいだから、完コピしているのかと思いきや、割と弾けていなかった。SHOW-HATEさんが後ろから一緒に指を押さえたり、コードを教えたりしながら、曲は終わった。あの少年は凄い。あれぐらいしか弾けないのに、手を挙げる勇気。ステージの上の少年は、カッコよかった。少年はバンドをしているらしい。ステージから降りた少年に、待ってるわ、とMAHさん。大歓声。少年は恐らくこの日を一生忘れないだろう。そしていつかSiMと対バンする日がきたら、打ち上げで、この日の話をするのだろう。おれはとても、綺麗なものを見た。

盛岡まで残り54kmという標識を通過した。山に囲まれた高速道路を機材車が走る。