goodbye,youth

増子央人

2018.01.26

バイト先の社員が最近ビットコインを買ったと言っていた。友だちが30万ぐらい儲けたらしい。おれはすぐにビットコインについて調べてみた。なんとなくビットコインが何なのかはわかった。30万かぁ、30万あったらドラムセットがローンなしで買える。本気でビットコインをやろうかと思ったが、次の日のニュースでビットコイン暴落と出ていて、すぐにやる気がなくなった。賭け事をしたことがないおれはそういう話に凄く臆病だ。賭け事ではないんだろうけど株もビットコインも競馬もパチンコもスロットもおれにとっては同じ話だ。現実に戻って、その日もビットコイン社員のいるバイトへ向かった。

名古屋の歩道は雪解け水が凍って注意して歩かないと簡単に足を滑らせる。コメダ珈琲でココアを頼むとココアなんて見えないぐらいコップいっぱいに生クリームが盛られていた。どうやって飲めばいいのか見当がつかなかった。生クリームをスプーンですくって食べた。糖分の塊、それを食べた日に1日歯磨きをしないだけで全ての歯が虫歯になるんじゃないかと思うぐらい、口の中は罪悪感すら感じる甘さでいっぱいになった。窓の向こうをサラリーマンが歩く。マフラーで口まで隠したJKが歩く。こんな寒空の下で信じられないぐらいミニスカートのいかにも尻軽そうな女が歩く。東横イン、タクシー、赤信号、人、雪、ヘッドライト、外は窓ガラス一枚挟んだだけでまるで別世界のように感じる。

まるで、ライブがないと、自分はただのフリーターで、バイト先の歳下の社員の陰口に付き合って、店長の愚痴を聞いて、ほんまっすねぇ、確かに、やばいっすねぇ、ほとんどこの3語のみでそのときのおれの言葉は形成されているが、そんなに陰口を聞いていると、いつの間にか自分の口からもあれよあれよと陰口が出てくる。自分の価値を底無しに下げながら、そんなことには気付かず、その場しのぎの仲間意識のために他人を売っている、あのクズたちと同じことを、自分はしているんだと気付く。そして何も会話をしたくないという気持ちになる。一心不乱に洗い物をして、キャベツを切って、焼き鳥を焼いて、聞こえていない言葉に適当に相槌を打つ。今日は久しぶりにライブがある。