goodbye,youth

増子央人

2018.01.24

最近また寒くなってきた。春の匂いがしたのはほんの一瞬だけだった。ふとしたときに出るため息の白さで、ため息に気づく。駅前のコロッケ屋さんのハムカツはずっと優しい。小さい頃、風邪をひいて父さんに駅前の病院に連れて行って貰った帰り道、「ハムカツやったら食べたい」とおれが車の中で言うと、父さんが「あそこのハムカツ食べたらなんでも治るぞ。でも風邪ひいてるときに油もんあげたら母さんに怒られるから、内緒やで。」と言ってハムカツを買ってきてくれた。凄く美味しかった。食べたあと少し気持ち悪くなったのも覚えてる。でも次の日には風邪が治った。あのお店のハムカツはやっぱり、なんでも治すんや!めっちゃ美味しいし、絶対そうや!とハムカツ万能薬論がおれの中でそのとき立証された。父さんは満遍の笑みでほんまか凄いな!と驚いていた。もちろん病院で貰った処方箋が効いただけだった。あの頃からお店で揚げ物を揚げていた腰の曲がったおばあちゃんは、何年か前からもう見なくなった。それでも味は変わらずあの頃のまま、今度はおそらくその人の娘さんが揚げ物を揚げている。おれはただの客で、話をしたこともないけど、なぜか感謝の気持ちでいっぱいになる。きっとおれと同じような人たちが、あのお店に並んでいる人たちの中には沢山いると思う。色んな思い出が詰まっている一枚70円のハムカツ。守り続けてくれてありがとうございます。