goodbye,youth

増子央人

2017.11.03

ツアーファイナルが終わり、奈良に帰ってきた。ツアーファイナルというのは名前だけで、ツアーが終わってもライブは続く。昨日はあんなにたくさんの人が集まるなんて思ってもいなかった。ステージから見えるみんなの顔はおれたち以上に真剣で、それが嬉しかった。Toursのイントロで初めて客席が明るく照らされて全体が見えて、こんなに人がいたのかと驚いた。「おぉ」ぐらいの声が漏れた気がする。ライブが終わってすぐ、見に来てくれていた同級生の八木ちゃんのもとへ行った。今東京で仕事をしているそいつは高校のときの友だちで、確か廊下で八木ちゃんがレモンティーを急にくれたのがきっかけで仲良くなった。2人で乾杯をしたのは初めてかもしれない。それが東京のライブハウスで、おれらのワンマンライブで、ソールドアウトしていて、なんだか嬉しかった。他愛もない話をしていたら関係者への挨拶があるから中に来てと言われ、途中でフロアの方へ戻った。関係者への挨拶というのは好きじゃない。わざわざ来てくれたのだから挨拶をする、というのはわかるが、あんな流れ作業で挨拶をしても意味がない気がする。そしてわざわざ来てくれたのだからということならお客さんたちもみんなそうだ。貴重な時間を削って、お金を払って見に来てくれてる。そこに差は一つもない。挨拶が終わって、バーカウンターの前でまた八木ちゃんと少し飲んだ。こういうときのビールは驚くほど美味しい。関係者への挨拶の時間より、仕事終わりにスーツで見に来てくれた同級生との時間の方が何倍も大事だ。いつもふざけていた野球部の八木ちゃんは、スーツをしっかり着こなしていた。テスト休み中、机をつなげて黒板消しをネットに、スリッパをラケットにしてよく卓球をしていた八木ちゃんはすっかり大人になっていた。またなと言って、八木ちゃんは新宿LOFTの階段を登っていった。打ち上げはワンマンライブとは思えないぐらい人がいてとても賑やかだった。それも嬉しかった。今日来年一年のミーティングをした。また気がつけば桜が咲いて蝉が鳴き出し金木犀の香りがしたと思ったら吐く息が白くなっていくんだ。おれはドラムじゃないとダメなんだなんてことは思ったことがない。たまたま今音楽で、たまたま今ドラムを選択しているだけで、こだわりなんてない。時間がないなんて言っていたらあっという間に死んでしまう。これからもおれはおれがやりたいことをやりたい。