goodbye,youth

増子央人

2017.09.30

札幌の空気は澄んでいてとても冷たい。アウターを奈良から持ってきて正解だった。舞鶴を24時に出てフェリーに揺られて20時間、小樽に着いたのは20時ごろだった。フェリーの中ではほとんどの時間が圏外だった。iPhoneも使えないので11時ごろに起きて本を読んでいた。本屋でなんとなく良さそうだったので1年前に買った本をやっと読み切ることができた。今はリハ終わり、札幌の街を歩いて少し腹が減ったのでマクドナルドに来た。帰りもフェリーに乗るので、さっきブックオフで小説を4冊買った。本棚の前で何を買おうか選んでいると、隣で女性2人が仲良さそうに話しながら本を選んでいた。会話から、相当本に詳しいんだろうなということがわかる。見た目も2人とも眼鏡をかけて大人しい雰囲気の、いかにも趣味は読書です、という感じの人たちだった(これは偏見)。2人が本を目の前に話す様はまるでおれたちバンドマンがCDを目の前に好きな音楽を語り合っているときのようだった。本の世界にも、色んなジャンルがあって、数え切れないほどの作者がいて、数え切れないほどの作品があって、2人の会話を盗み聞きしている間、まるでおれの知らない世界に一瞬入ったような気になった。まだまだこの世には自分の知らない世界が山のようにある。そしてその世界では計り知れないほどの感動がきっとある。それを死ぬまでにどれだけ体感できるのか、たぶん全部は無理なんだろうけど、できるだけ多く自分の体に染み込ませたい。会計を済ませた4冊の本はまだ綺麗なものもあればボロボロに使い古されたものもある。それを見て少し嬉しくなる。古着を買ったときも同じ感覚になる。くたびれた姿が単純に好きだというのもある。それと、おれが買う前は一体誰がどんな気持ちで読んでいたんだろう、と妄想をするのも好きだ。燃やされない限り、誰かが手にとって使い続ける限り、どんなにボロボロになってもゴミにはならない。人と人の間を巡り続ける物の美しさが必ずある。ブックオフを出ると外はさっきより暗く、寒くなっていた。マクドナルドのポテトはどこでも安く、どこでも美味しい。