goodbye,youth

増子央人

2017.09.16

朝起きると声がガサガサになっていた。おそらくもともと風邪気味だった喉に打ち上げで長時間ビールと大声という負担をかけたせいだ。自業自得だと思いながら、前の日の打ち上げ終わりにシャワーを浴びながらご機嫌で歌を歌っていた自分を恨んだ。大分の街を歩きドラッグストアを探した。入ったお店の薬剤師のおじさんにどの薬が即効性があって1番効くか聞いてみた。奈良からバンドで来てて、という話もした。オススメしてくれた薬を買うと、おまけで試供品の風邪薬を2つつけてくれた。その優しさで、風邪なんて治った気がした。リハーサル終わり、あまり喋らない方がいいと薬局のおじさんに言われたのでまた1人でとぼとぼ歩いていた。雨上がりの公園は腰をかけれるような場所がないからあまり好きじゃない。途中で大きな建物の屋根の下に石のベンチがあったのでそこに座っていた。気がつくとまた寝ていた。寒くなったので戻ろうと思い歩いていると良い感じの古着屋を見つけた。とても好きな感じだった。買いたい服が何個かあったがお金がなかったので我慢した。店の前にあったハコの中にデッキシューズが無造作に沢山入っていた。ハコには全部500円と書かれた紙が貼ってあった。もう役目を終えたのか、ただ処分されるのを待っているのか、くたびれて汚くなったデッキシューズはとても美しく魅力的に見えた。茶色のデッキシューズを一足買った。アメリカの土地を歩き回っていたのか、大分の土地を歩き回っていたのか、もしくは全然違うところか、まったくわからないが、これからは奈良の土地を、ツアーで回る全国の土地を、いっしょに踏み倒して行く。古着屋で靴を買うのは初めてで、そんなことを頭で想像しては、いやただ古着屋で靴買っただけやぞと自分で少し可笑しくなっていた。

ライブは無事終わった。終わって機材を搬出したあと、待ってくれていたお客さんと話をしていた。おれは喉が良くなかったので打ち上げには出ず、1人ご飯を食べてホテルに戻ろうとしていた。オススメのラーメン屋さんをいくつか聞いて、じゃあなと別れようとしたとき福岡から来たというお客さんがおれに傘をくれた。その子は、駅までならアーケードの中なので濡れないし、もしアーケード抜けても友だちといっしょに傘に入るから大丈夫と言って、ビニール傘を渡してくれた。別に大したことではないのかもしれないが、凄く嬉しかった。それだけで、誰かに親切ができるぐらいには気持ちが明るくなっていた。朝の薬局のおじさんといい、世界はこうして回っているんだなと思った。世界はこうして回るべきだと思った。駅前のラーメンを食べて、賑やかな土曜の晩の大分の街を歩いた。打ち上げに出ないとやっぱりなんだか少し寂しかった。コンビニでビールでも買って帰ろうかと思ったが、なんとなくやめた。ホテルに戻ってコインランドリーで服を洗い、忘れないように貰った傘をドアのぶにかけた。シャワーを浴びて壊れかけの加湿器の音の中明日に備えて寝た。