goodbye,youth

増子央人

2017.06.07

東京からの帰りの車の中。渋谷はビル風が強く、意志のない人間は立っているのも難しそうな程の強い風が吹いていた。今日で関西は梅雨入りしたらしい。雨は本当に嫌いだ。足元が濡れるのには耐えられない。動く気が失せる。渋谷では人が流れては消えていく。高架下を通るとき、おれは毎回ホームレスの寝床を流し目で覗く。普通の環境で育ったおれには、あの光景は何度見ても慣れない。あそこで人が寝ているなんて、未だに信じられない。おれにとってあれは非現実的な空間で、高架下を通ると何か変な感情になる。その高架下を抜けるとタワーレコードがある。突然視界に黄色い建物が現れ、音楽が鳴り響く。ビル風というものは奈良県民にはとても新鮮だった。ビルという建物はおれにとって仕事の象徴だ。あいつらはまるで部外者のおれを追い払うかのように強く強く風を吹かせた。あの強い風は海辺のそれとはまるで違うように感じた。とても冷たくて、無機質で、少し怖かった。