goodbye,youth

増子央人

2019.04.23

なら100年会館の前の広い階段に座っている。休憩時間はあと30分程で終わる。スウェット一枚だけでも少し暑い。右手に持つハイネケンの瓶は中身がもう少しでなくなる。残っているビールは人肌ぐらいにまでぬるくなっている。やっぱりビールなんか早くに飲み干…

2019.04.16

薄く青い岡山の空に碁石のような鴉が一羽浮かんでいる。街はすっかり春めき、自転車にまたがる女子高生のスカートはやらしさを持たずに無邪気に揺れている。遠くの方に山が見える。綺麗な緑色をした木が生い茂り、山もまた春を歓迎しているように見える。 TH…

2019.04.03

奈良では桜が咲き始めた。部屋で久しぶりにラジオをつけた。FM89.4、中学生の頃によく聞いていた、アルファーステーションのチャンネルに合わせた。求めていないのに流れては去っていく雲のように、エレファントカシマシの四月の風やoasisのDon't Look Back …

2019.03.28

船は自らが意志を持っているかのように日本海の上を転覆することなく北へ北へと進んでいる。もうかれこれ17時間ほど船の上にいる。窓からは北海道が見え出し、それと同時にiPhoneに電波が入った。少しだけSNSを見た。奈良から持ってきた村上春樹の1Q84を昨日…

2019.03.23

最近は小説を読んでいる。以前よりも半ば義務的に、でもとても楽しく読んでいる。死ぬまでに、いやそんな呑気なことは言ってられないので、少なくとも30歳になるまでにできるだけ頭の中に他人の書いた文字を沢山詰め込みたい。時計の針が止まることは永遠に…

2019.03.13

春の代償で目が赤い。喉もかゆい。機材車はオレンジの無数の光の下を走り、大都会東京へ向かう。この前初めて東京タワーに登って、夜の東京を見下ろした。街に張り付くネオンは、福島で見上げた空に輝いていた星たちのように、無機質で、おれの想像の範囲の…

2019.02.21

喫茶店で店員に置かれた砂時計を無心で見つめていた。アナログで、原始的なこの時間の測り方には、言葉では表すことができない、非効率的な美しさがある。世界はすべてが効率化されていく。中国では、生まれてくる前の子の受精卵の遺伝子を編集し、HIVにかか…

2019.02.05

桜の見えるあのベンチに置いてきた感情はもうしばらく戻ってきそうにない。父と捕まえに行ったカブトムシは虫かごから飛び出してもう戻ってこない。母は家に1人なのに今日もお味噌汁を作り過ぎる。校庭を一人で走っていた妹は、今日も一人で東京を走っている…

2019.02.01

機材車は徳島から奈良へ走る。今日は打ち上げがなかったので、機材搬出をして松屋で飯を食べてすぐに高速に乗った。ライブ前、アフロさんとバイトの話をした。おれは何歳までバイトをしているだろうと少し考えたがそんなことは月の隣に光るあの星がどのくら…

2019.01.10

近所のダイコクドラッグに、外国人の女性店員がいる。ヨーロッパ系のその人は、驚くほど愛想が良い。ずっと笑顔で、とても丁寧に、一生懸命に接客をしている。話す言葉はカタコトの日本語だが、日に日に発音が上手くなっている気がする。それを見るたびに、…

2018.12.21

窓の向こうには青空、暖房の付いたこの部屋は乾燥していて空気が悪い。外は冬、おれは半袖でバイト先の居酒屋の個室に寝転がっている。休憩時間はもう少しで終わる。今年の年末年始はバイトすることになった。あれ、もう今年が終わる、部屋に置いてある空き…

2018.12.17

高3の夏、そのとき組んでいたコピーバンドのスタジオで、初めてRe viewのCDを聞いた。青い目のジャケットで3曲入りの1st ep。同い年で、全部自分たちのオリジナルの曲だということを聞いて、とてつもない衝撃を受けた。こんなにカッコいい奴らが同い年で奈良…

2018.12.02

渋谷www xでのワンマンライブが昨日終わった。ずっと昔から見てくれていた人たちは尚更、昨日の夜の光景がどれほど特別なものだったかわかると思う。ステージから見えたみんなの顔は、とても輝いていた。何度も何度もグッときて、涙を堪えた。感情が高鳴れば…

2018.11.17

機材車は福岡から奈良へ帰る。ircleとbachoと回る二日間が終わった。 昔、大学辞めて就職をせずバンドをやると言ったおれに母さんは、大人になって惨めな思いをするのはあんたやで、私はあんたにそうなってほしくない、と言った。惨めとは、一体何だろう。母…

2018.11.10

高松を出て機材車は高知へ向かった。真っ白な画用紙の上にポスターカラーの青をぶちまけたような真っ青な空は、あそこまで青いとおれとは全く関係のないような、宇宙の果てを見ているような、テレビのリゾート地特集の番組で遠い海外の透き通る綺麗な海を見…

2018.11.05

東館駅から郡山駅に向かう列車は風景とは似合わないような近代的な見た目で、列車の中にはトイレまで付いていた。緑に覆われた山の中を鮮やかなペンキで塗られた列車が走る。たまに鳴る汽笛の音が、山の風景にとても似合っていた。 昨日、父はライブハウスへ…

2018.11.03

リハーサルが終わり、ライブハウスを出て、去年ツアーで郡山に来たときに行った古着屋に行ってみた。あそこの店員さんはとても綺麗で、確かあのとき、少し話をして、おれは気に入った茶色のフリースを買った。まだあの人はいるかなと、少し期待して古着屋へ…

2018.11.01

昼前に寒さで目が覚めた。カーテンを開けると窓の外は冷たそうな灰色の空気で塗り潰されていた。去年買った厚手のパーカーを引っ張り出して、去年と同じように着てみた。夏を思い出そうとしても、もう随分昔のことのように感じて、蝉の声も、山の上に伸びる…

2018.10.25

この前、TSUTAYAでDVDを借りて、映画を見た。犬の話だった。頭の中は、昔飼っていた源太郎のことでいっぱいになった。その映画は、犬は死んだ後に転生して、昔の記憶を持ったまま、また犬になるって話だった。そんな話、ないとはわかっているが、その話を信…

2018.10.23

雨の奈良を抜けて機材車は昨日と同じ、神戸へ向かっている。さっき奈良を出る前に奈良駅前で食べたカツ丼でお腹の調子が良くない。目を閉じれば鮮明に思い出せるほど、瞼の裏には昨日のTHE NOVEMBERSのライブが焼き付いている。後ろの照明がまるで爆弾のよう…

2018.10.18

バイト終わり、2曲分歩いて24時間営業の定食屋へ行った。690円の唐揚げ定食が一日を閉める。ここに来る途中にあるあのラブホテルは少し前に改装工事があって、名前も変わってしまった。帰り道、信号の光が一定のリズムで点滅、耳元の音楽のテンポとは何一つ…

2018.10.16

肌寒い朝、ベッドの中でアラームを10分後に掛け直して二度寝をした。10分後に鳴り響いたアラームをすぐに止めてベッドの外へ出た。すぐにレコードを回して、顔を洗った。昨日の酒がうっすら残っていた。三日前からカーテンレールに干しっぱなしになっている…

2018.10.11

昨日GOLDを発売した。バイト先へ向かう朝焼けの中、好きな音楽を聴きながら歩いた。GOLDも聴いた。おれはなんとなく、大丈夫なんじゃないかと思った。全部。来月の家賃のことも、年金のことも、好きだった人のことも、実家で一人暮らしをする母さんのことも…

2018.10.04

先月26歳になった。生活は相変わらず、苦い奈良の空気を吸い込んではコンビニの缶ビールで日常を誤魔化している。体に悪そうなものばかりを摂取して、季節が乱暴に変わっていくのを1Kの狭い部屋から他人事のように傍観していた。好きなあの邦画のように、特…

2018.09.19

巣鴨のカプセルホテルを早朝に出て、車で埼玉へ向かった。今日はMV撮影をする日。都会から田舎へ車は進んだ。相変わらず田んぼの稲はどの土地のものも美しい。金木犀の香りや、赤トンボ、心地良い風なんかが、パレットの上に赤色の絵の具を出して、ボードを…

2018.09.15

朝方の4時頃奈良に帰ってきた。部屋に着いて思い出したが、そういえばこの遠征に出た当日は、確か昼の1時頃に奈良を出た。そしてその日は朝の10時頃まで飲んでいた。居酒屋を二軒はしごして、その後なんだか大勢がおれの部屋に来たがあまり覚えていない。そ…

2018.09.12

遠征中は、沢山書きたくなる。たぶん、いつも見ないものを見るし、いつも会わない人と会うし、いつもより1人になれるからだ。ずっとどこかへ旅をしていれば、ずっと何かを書くことができるんじゃないかと思う。機材車の窓からは青空が見える。この遠征中ずっ…

2018.09.11

半袖じゃ肌寒いくらいに風が涼しい。西永福駅で渋谷行きの電車を待っている。目の前をおれの苦手な香水をつけた男が通り過ぎた。その嫌な香水の匂いをかき消すようにホームに電車が流れ込んだ。やはり少し寒い。昨日機材車で見た映画を思い出そうとした。あ…

2018.09.08

広島から大分へ向かう車内、外は雨が降っている。遠くの山には天女の羽衣のような薄い雲が山にかかり、幻想的な景色になっている。その手前を見ると田んぼには稲が背丈を揃えてびっしりと並んでいる。とても綺麗だ。台風にも豪雨にも負けず、誰に言われるで…

2018.09.05

大阪駅から奈良駅へ帰るまでに見える街はところどころが昨日の台風の影響で荒れている。根っこごと抜けて倒れている木、屋根の上で倒れているアンテナ、瓦の剥がれた屋根。電車の中、ビールを飲みながら他人事の景色を傍観する。目の前の向かい合う席には幸…