goodbye,youth

増子央人

2021.01.08

居酒屋でバイトをしていたときの後輩が、12月29日の朝、新宿で写真を撮ってくれた。カメラマンを目指して奈良から上京したそいつは相変わらずフィルムカメラで写真を撮っていた。パソコンはあるし、デジタルのが写真が出来上がるのも早いし、今の時代、絶対にそっちのがいいのはわかってるんですけど、やっぱフィルムの質感が好きなんです、でもやっぱみんなデジタルでやってますよね、そっちのがいいですよね…。そう言いながら小さなフィルムカメラを首からぶら下げているそいつと歌舞伎町を歩いた。少し時間が余ったので、そいつと昼から開いている居酒屋へ行った。リハ前に居酒屋で酒を飲んだのは初めてだった。一杯だけ飲んで解散し、Zepp Tokyoへ向かった。そいつは、ウーバーイーツしてからライブ観に行きます!と言って家へ帰った。

年末のワンマンライブは、沢山の人たちが関わってくれた。おれたち3人だけでは到底できないようなライブだった。バンドなんていつもどこでもそうだけど。12月29日は特にそれを感じた。そして命を張ってまで来てくれた沢山のお客さんたちに救われた。目の前に人がいることが嬉しかった。

今朝、福島の父から動画が送られてきた。父が昔ライブに来たときに買って行ったAge Factoryのバスタオルが物干し竿に干されて風になびいていた。その後ろに綺麗な川が見えた。父は最近実家から隣町に引っ越して一人暮らしを始めたと聞いていたので、綺麗な景色が見えるアパートに住んでいることがわかって安心した。家の窓から見える景色が綺麗だと言うことは、とても大事なことだと思う。どんなにしんどいことがあっても、外を見たときに綺麗な景色が目前に広がっていたら、優しい気持ちになれる。

明日は奈良ネバーランドでライブをする。

 

 

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2020.12.21

シロップを全部入れたら甘すぎた。失敗した。なんならホットにすればよかった。入店したときは暖房が暑いなと思ったのに、今は寒い。なんでだ?と思って周りを見たら入り口のドアが開きっぱなしになっていた。換気しているっぽい。コロナのせいでおれは、紅茶をホットにするかアイスにするかの判断を間違えた。…ついでにシロップも入れ過ぎた。確実にコロナのせいだと思う。

昨日、高校一年生の男の子と、飼っていた犬の話になった。その子は家で犬を飼っていて、少し前に1匹が死んでしまったけど、まだ2匹いて、とても可愛いんだと屈託のない笑顔で教えてくれた。犬飼ってる?と聞かれたので、昔飼ってたよ、結構前に死んじゃったけどな、と答えると、突然その子は俯いて、今にも泣き出しそうな顔になった。なんでお前が泣きそうやねん!かなり昔のことやから!と笑いながらツッコむと、そうかぁ、そんとき泣いた?と聞かれたので、うんまあ、そのときは泣いちゃったなあ、と答えると、そうかぁ、と言ってまた俯いて、泣き出しそうな顔になった。だからあ!なんでお前がそんな顔すんねん!とまた笑いながらツッコんだが、なんだか嬉しかった。他人のことで悲しむことができる人は優しい。彼のそういうところは今までも何度か見てきた。見習いたいといつも思う。

先日、約1年ぶりに、DROP CLOCKのメンバーの宇田さんと会って飲んだ。宇田さんは、色んなことがあって今はバンドの活動に参加していない。底抜けに優しい宇田さんは、もうしばらく会っていない友だちのことばかり心配していた。みんなは変わらず元気にやっていて、たまに4人でスタジオに入ったりもしていることを教えると、とても安心していた。今の仕事はやり甲斐があって、上司も良い人らで、ほんまに楽しいねん、と話す宇田さんを見て、おれも少し安心した。案の定その日は飲み過ぎた。

 

 

 

2020.12.17

レコーディング最終日。1日目にドラムを録り終えたので2日目からほとんどやることがなかった。ドラムテックはLOSTAGEの岩城さんにしてもらった。相変わらずチューニングのことをよくわかっていないおれは「増子くん全然覚える気ないやろ、運動神経のみでドラム叩いてるもんな」と岩城さんに言われて、なんかそれ漫画のキャラみたいやなあと思った。そんなことだからいつまで経ってもチューニング技術が上達しない。ドラムは昔から叩くこと以外のことに興味があまり湧かない。今回のレコーディングでは、Age Factoryの最近のMVや配信ライブの監督をしてくれている央大というやつに映像も撮ってもらっている。央大は英介と同い年で、東大出身、映画監督、少年時代をアメリカで過ごして英語ペラペラ、ギター上手いピアノ上手い歌上手い足速い、エンジニアもできる、彼のスペックがあまりにも高すぎて、央大が苦手なことを必死に探していたらドッヂボールが弱いということが判明し、英介とやたら喜んだ。ドッヂボールなら勝てる。「おれもドッヂボール苦手やわ…」と隣のなおてぃが呟いた。

突然少年の新しいアルバムにコメントを送った。せんちゃんはもうしばらく会っていないのに、音源が完成したらいつも連絡をくれる。こういう繋がりは、いつまでも大切にしたい。アルバムを聴いて、早く突然少年のライブを観たいと思った。

3日ほど前から急に寒くなった。吐く息が白い。爪切りで切った爪のような形の三日月が夜空に浮かんでいるのが見えた。あれを投げたら相当な武器になるに違いない。今年の冬はストーブを買おうか迷っているが、どうせまた買わずに春が来るんだろうとも思う。

 

 

 

2020.12.10

もみじは火が消えたように散り、風に揺れるススキは白い海のように波打っていた。見て!サンタいる!とランドセルを背負った小学生たちが指さす方向には壁をよじ登るサンタのイルミネーション。光っていないのに目立っていた。

 3日前の休日、昼間に金麦を飲みながらTHROAT RECORDSへ寄った。五味さんはコーヒーを出してくれようとしたが、おれが金麦を持っているのを見て出すのをやめた。「こんなに長い間ライブもなくなると、バンドやってる意味もわからんくなる人だっていますよね。」とおれが言うと、「バンドやることに意味なんてもともとないけどな。」と五味さんが言った。まあそうすよね、と返したけど、あれからたまにその言葉を思い出す。ただ思い出すだけで、特に何かを考えるわけではないけど。頭の中をその言葉がくらげのようにふわふわと漂っている。そのあといつも行く古着屋へ行きフリースを買った。

 一昨日、奈良ネバーランドのスタッフの人たちと飲んだ。「エイジが東京ドームでやる日がきたら、前乗りして酒飲んで、ライブ中もずっと飲んどくわ。だってそんな最高なアテないやろ。」と向井さんがビールを飲みながら言った。その日はとにかく笑った。今年は、奈良ネバーランドがあってよかったと何度も思った。

 来週から奈良で新曲のレコーディングが始まる。

 

 

 

 

 

2020.11.07

一昨日の夜、五味さんから連絡をもらい、korekaraで飲んだ。翌日、二日酔いによる酷い吐き気を薄めるために水を飲みまくったがそのせいで胃がパンパンになり更なる吐き気に襲われた。どんな二日酔いも一瞬で治る薬があればと今までに何回思ったかわからない。スタジオではえーすけと将来の話をした。こういうことはそう頻繁にはない。冷静に話している風を装っていたがその場でぐるぐるバットを5回したら多分吐いていた。

コロナでライブができなくなったが、奈良での生活には何の支障もなかった。月に何本もライブをしていた頃に比べて生活は単調になったが、不快な変化ではなかった。刺激がない、同じ1週間の繰り返し、ああこれも別に悪くないな、なんてことも少し前まで思っていた。いや、今でもたまに思う。12月29日、ZEPP TOKYOでのワンマンライブで、何を思ってどんな感情になるのか、自分でもわからない。ただドキドキしている。

スーパーで買ってきたお惣菜を食べながらついさっきまでPELICAN FUNCLUBの配信ライブを観ていた。バンドは不器用で非効率的で無駄が多いけど、一番カッコいい。そう再確認した。

2020.10.22

最近の夜はパーカーを着ていても寒くなってきたので自分が聴く用の冬のプレイリストを作っていると、夏の夜用のプレイリストに入れていた曲とも何曲か重複して、そうか歌詞がわからなければ想像次第でその曲は夏の曲にも冬の曲にもなるのか、歌詞がわからないってのもいいね〜なんて思いながらアサヒの缶ビールをプシュッと開けて飲んだりしていた。セブンイレブンで買った柿ピーを一晩で食べ切れなかったので翌日の夜にまた食べようと思い袋を開けたまま机の上に置いていたら翌日の夜にはしなしなになっていた。なぜか柿ピーはしなしなにならないと思っていた。ピーナツまでしなしなになっていて、おれの頭にははてなマークと泣き顔の絵文字がぽつぽつと浮かんだ。

コロナのせいでライブ活動ができなくなり、うろこ雲のように規則的で穏やかな日々を過ごしている。バイトから帰ってきてやるべきことを終え、お笑いの動画を見て1人でケタケタと笑い、隣の部屋のおじさんが怒って壁を叩いてきたりしないかと怯えながら、それでもお笑い芸人たちの面白さにおれはケタケタどころかゲラゲラと笑い、笑いについてのみを追求し、人を笑わせるお笑い芸人という職業はなんて尊いんだ、よし生まれ変わったら漫才師になろう!いや、コント師も素敵だ!いやでもやはり漫才だ!なんて浅はかなことを考えたりしている。もちろんこんな日々が毎日続いているわけではなく、サブスクに並ぶ聞いたことのないアルバムたちを聴き漁ってドラムがかっこいい曲を頭の中でコピーしたり、やろうと思っていたことが何もできなくて罪悪感とともにベッドに入って眠る日もある。こんなとこに金木犀あったんだ、とか、あれ絶対火星、とか、あの犬は何と何のミックスだ?とか、ライブしたいな、とか思っていると、コロナが流行り出してからもう8ヶ月近く経っていて、この生活にも慣れてきてしまった。バンドをしている友だちたちは、今どんな生活をしているんだろう、みんなこんな風に、どっちにも転んでしまいそうな場所に立っているんだろうかと気になったりするが、他人は他人だしな、なんでもいいや、聞くのも面倒くさいし、と部屋に帰って自分の世界に没入する。ベランダの向日葵のミイラ早く片付けないと。もうすぐ冬が来る。

2020.10.08

昨日の夜から雨が降っている。朝、窓の外から鳥の鳴き声が聞こえたので雨が止んだんだと思った。まだ起きる時間ではなかったのでベッドの上でぼーっとしているといつの間にか鳥の鳴き声は聞こえなくなり、起き上がるときには雨の音がしていた。外は寒そうだったので3年前に下北沢で買った黒いアウターをハンガーラックから取って埃を払った。

最近はというと同級生と久しぶりに飲んだり奈良ネバーランドに遊びに行ったり機種変したり初めてお笑いライブの配信チケットを買って家で観たりした。誕生日に福島の婆ちゃんから手紙が届いた。父からは本が届いた。自分では買わないし家にあってもよっぽどのことがない限り読まないタイプの本だったが、読んでみようと思った。まだ1ページも開いていないけど。

今日は寒い。アウターを着て外に出て正解だった。父が送ってくれた段ボールの中には本の他に白いメッセージカードのようなものも入っていた。カードには、"離れていても いつも 応援している"と書かれていた。なんちゅうくさいセリフを、と思ったが、嬉しかった。雨の日のバスは時刻表通りに来ない。傘をさしてバスを待つ。