goodbye,youth

増子央人

2018.10.18

バイト終わり、2曲分歩いて24時間営業の定食屋へ行った。690円の唐揚げ定食が一日を閉める。ここに来る途中にあるあのラブホテルは少し前に改装工事があって、名前も変わってしまった。帰り道、信号の光が一定のリズムで点滅、耳元の音楽のテンポとは何一つ合っていなかったが、なんだか心地よかった。コンビニに寄って缶ビールを買おうと思ったが、なんとなくやめておいた。寂しさなのかなんなのか、よくわからないが、それに似たような、とても鬱陶しい感情を紛らわすため、ポケットからiPhoneを取り出してLINEを開くが、まだ連絡は来ていない。家に帰って、風呂に入って、歯を磨いて、金がないのにピンサロに行かないよう一人で抜いて、またLINEを待ちながら照明にタイマーをかけて寝落ちするまで小説を読む。洗濯物は畳むのが面倒なので相変わらずカーテンレールに干しっぱなしにしている。夕方、アパートの廊下から見える五重の塔が奈良の夕陽に照らされて、まるで1300年前の奈良時代にタイムスリップしたかのような、たまにそのような不思議な感覚になる。オレンジ色の夕陽に塗られた素朴な家々の風景がとても暖かく、心が一瞬解けて、ため息が漏れる。その後に入る誰もいないエレベーターの個室はおれだけの空間で、1階まで降りる間の時間、壁にもたれて思考を止める。時計の針もあの時間は動いていない。ドアが開けばまた針は動き出す。日々はただそれを繰り返している。

 

 

2018.10.16

寒い朝、ベッドの中でアラームを10分後に掛け直して二度寝をした。10分後に鳴り響いたアラームをすぐに止めてベッドの外へ出た。すぐにレコードを回して、顔を洗った。昨日の酒がうっすら残っていた。三日前からカーテンレールに干しっぱなしになっているズボンが目に入ったが、畳むのが面倒だったのでそのままにしておいた。人はどこまでも孤独で、宇宙に浮かぶ小惑星のような、夜空に浮かぶ星のような、深海に沈む石のような、周りに似たものは確かに沢山あるが、確かに孤独な、そんな存在なんだと、最近はそんなことを考えていた。東京、そっちの空はどんなだろう。目を瞑って想像してみた。ホームレスたちの寝床を横目に、渋谷の雑踏を抜けて、ふと見上げた夜空には、星の光なんてなかった。コンビニのラーメンサラダで、健康な体を手に入れたつもりになっている。朝まで続いた長電話で、距離が近づいた気になっている。小説を読みきって、わかったつもりになっている。ツアーが始まる前、1Kで過ぎる何もない毎日は、冷たい秋空をより深くした。

 

 

2018.10.11

昨日GOLDを発売した。バイト先へ向かう朝焼けの中、好きな音楽を聴きながら歩いた。GOLDも聴いた。おれはなんとなく、大丈夫なんじゃないかと思った。全部。来月の家賃のことも、年金のことも、好きだった人のことも、実家で一人暮らしをする母さんのことも、東京で一人暮らしをする妹のことも、福島で暮らす父のことも、おれのお腹が弱いことも、なんだか全部、大丈夫な気がした。音楽とは不思議で、いつも根拠のない自信と勇気をくれる。おれたちは昨日無限の空へと羽ばたいて、あの日馬鹿にした君の声なんてもう聞こえないところまで行こうとしている。あとはみんながついてくるだけだ。音量をいつもより少しだけ上げれば、そこにあるのはおれたちと音楽だけ。それだけで充分な気がした。

 

 

 

2018.10.04

先月26歳になった。生活は相変わらず、苦い奈良の空気を吸い込んではコンビニの缶ビールで日常を誤魔化している。体に悪そうなものばかりを摂取して、季節が乱暴に変わっていくのを1Kの狭い部屋から他人事のように傍観していた。好きなあの邦画のように、特に何も変化はなく、ただ確実にフィルムが進んでいく。人は人に依存してはいけないということを、音楽や、本や、人から、なんとなく悟った。日々の生活のすべては自分で選択ができる。SNSに生きる若者の、例えば、おれはあいつフォローをしてるのにあいつはおれをフォローしていない、そういうような、宇宙から見たミジンコほどの小さな小さな問題を重要視してしまうような人は、おれが将来書く小説には登場しない。空想の世界なら尚、そういった人たちは美しさとはかけ離れている。

机の上にはピーナッツチョコレート、水の入ったコップ、読みかけの小説、ブックオフで買ったDVD、セブイレのおしぼり、少しの不安と未来への期待。少しずつ寒くなる奈良は美しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

2018.09.19

巣鴨のカプセルホテルを早朝に出て、車で埼玉へ向かった。今日はMV撮影をする日。都会から田舎へ車は進んだ。相変わらず田んぼの稲はどの土地のものも美しい。金木犀の香りや、赤トンボ、心地良い風なんかが、パレットの上に赤色の絵の具を出して、ボードをどんどん染めていく。少しずつ黄色も入ってきて、淡い秋になっていく。過去の自慢話を口にすると、今の自分は小さくなる。陰口を言うと、綺麗なものが見えなくなっていく。不安を口にすると、意志は弱くなっていく。そんな気がする。この前、THROAT RECORDSに行ったとき、五味さんと、音楽の話ではなく生活の話をした。帰り道はなんだか酷く足が重く感じて、口からため息が漏れた。負けるなよ、と五味さんは言っていた。沈みかけの太陽が酷く眩しい。 MV撮影で汗だくになったTシャツが熱を冷ましていく。

 

 

 

2018.09.15

朝方の4時頃奈良に帰ってきた。部屋に着いて思い出したが、そういえばこの遠征に出た当日は、確か昼の1時頃に奈良を出た。そしてその日は朝の10時頃まで飲んでいた。居酒屋を二軒はしごして、その後なんだか大勢がおれの部屋に来たがあまり覚えていない。そして出発時間の20分前ぐらいに起きて慌てて準備をし、二日酔い、というか完全に酒が残ったまま、機材車に乗り込み、大阪へ向かった。なので部屋には飲んだ覚えのない空の缶ビールや、恐らく部屋に来た誰かが買ってきたであろう缶酎ハイなんかが冷蔵庫の中に入っていた。どれだけ酔っていても缶酎ハイは自分では買わないので、恐らく誰かのだ。実家から持ってきてソファの上に置いていた冬物のパーカーやスウェットなんかは、綺麗に畳まれてベッド下収納のスペースに直されていた。ビバラロックに出たときに貰ったインスタントラーメンが一つ減っていて、この部屋に越してきてからまだ一度しか使っていない深めのフライパンが綺麗な状態でコンロの上に置かれていた。恐らく誰かがラーメンを作って食べたのだろう。そしてフライパンを洗ってそのままコンロの上に置いたのだろう。まあそんなことはどうでもよかった。シャワーを浴びて、スタジオの時間まで寝た。10時頃に起きて、DROP CLOCKのスタジオへ向かった。そのあとは家に帰って溜まっていた洗濯物を回して部屋に干し、干しきれなかった分は近くのコインランドリーの乾燥機で乾かして、バイトへ向かった。バイトが終わって、コンビニで缶ビールを買い、松屋で晩飯を食べ、今は部屋に戻りソファの上で扇風機に当たりながらこれを書いている。バイトから上がってiPhoneを見ると、久しぶりに、昔好きだった人から、今日暇?と連絡が来ていた。慌てて返信したが、しばらく経っても既読すらつかなかった。外が涼しいので、窓を開けている。真っ暗な外から鈴虫の鳴き声が聞こえてくる。眠たくなってきた。今日はもう寝よう。

 

 

 

 

2018.09.12

遠征中は、沢山書きたくなる。たぶん、いつも見ないものを見るし、いつも会わない人と会うし、いつもより1人になれるからだ。ずっとどこかへ旅をしていれば、ずっと何かを書くことができるんじゃないかと思う。機材車の窓からは青空が見える。この遠征中ずっと雨続きだったので、初めて青空を見たかもしれない。機材車は北上し、仙台へ向かっている。昨日は昼に西槇さんの写真展を見に原宿まで行った。西槇さんの写真は、とても好きだ。ど素人のおれは言葉では上手く説明ができないが、とても好きだ。写真を見て、あの生活が羨ましく思った。喫茶店のようなところで展示をしていたので、ハートランドを一杯飲んで、西槇さんと少し話しをして、展示場を出た。そのあと山手線と中央線を乗り継いで高円寺へ行き、せんちゃんと初めて2人で飲んだ。これと言った濃い話はしていないが、居心地は良かった。入った居酒屋には犬がいた。というより、犬がいたからその居酒屋に入った。シェパードのような見た目だが、シェパードほど大きくはなかった。源太郎のことを思い出した。途中から出勤してきた店員が若いオネエだった。金髪で刺青の入ったそのオネエを見るなり犬は仰向けに寝転がって腹を見せた。オネエは両手でガサツに犬の腹を撫でて、犬は嬉しそうにしていた。あのオネエはきっと、とても良い人だ。二軒はしごして、せんちゃんは夜勤へ向かった。危なかった。もう一杯飲んでいたら、きっと夜勤を休ませて朝まで付き合わせていた。おれは上機嫌で音楽を聴きながら慣れない東京の電車に乗って帰った。