goodbye,youth

増子央人

2019.08.14

昨日は東京でMV撮影があった。朝方の渋谷を飲み歩いた。路上に座り込みながら飲む人たちのすぐ近くをネズミが横切った。居酒屋の前で潰れて寝ている人、高架下でダンボールに囲まれながら寝るホームレス、溢れかえるゴミ箱。その周りにまたネズミ。いつ来ても見慣れない。15時頃に撮影を全て終え、東京を出た。

帰りの車内で、今は社会人の、高校時代に組んでいたコピーバンドのメンバーから久しぶりに電話がきた。今そのときのバンドメンバーの1人と飲んでいるから来れないかとのことだった。奈良へ帰っている最中だったので勿論そこへは行けず、また飲みに行こうと口約束をして電話を切った。その二人が今一緒にいて飲んでいるということが少し嬉しかった。増子は今かもしれんけど、おれはあんときが一番青春やって、あんときが一番楽しかったんよ、と電話越しに話すそいつの顔は簡単に想像できた。かなり飲んでいたようで、電話を切ってから少しLINEをして、次いつ会えるかのやり取りをしたが結局予定が合わず、約束できなかった。最後に、売れてもそのままのお前でいてくれよ、と書かれたLINEが来た。今の自分を肯定された気がして少し嬉しかった。変わり続けたいが、変わりながら、芯だけは変わらずにいたい。奈良に着いてすぐにいつものうどん屋さんへ行った。変わらない味に気持ちが少し和らいだ。

 

 

2019.07.31

夜から朝まで付けっ放しのクーラーのせいでまるで酔っ払って鉛でも呑んだのかと思うほど身体が重たい。間違いない、きっと昨晩鉛を飲んだに違いない。最近居酒屋と掛け持ちで新しいバイトを始めた。子どもたちと関わっている。新しいことを始めるときはやはり心がリセットされたような気になり、知らない世界に触れた初日の夜は不安と期待が混合して夢にまで新しいバイト先が出てきた。つまりワクワクした。

7月が終わる。35度を超える日々が連日続き、やはりクーラーを消すタイミングは部屋を出るとき以外に考えられない。朝外を出ると世界中で鳴り響いているかのような蝉の鳴き声、オゾン層は完全に破壊され(そんな訳はない)太陽から直に届く日差し、ほぼ下着姿で歩く外国人観光客、スーツ姿で汗を拭きながら歩くサラリーマン。何匹のホタルがこの夏に命を落とし、何人のホームレスがこの夏に星になるのだろう。

気がつけばSNSのタイムラインばかり見ている、なんて時間の無駄だろうと思うが気がつけばまた見ている。そんなことよりあの雲が何の形に見えるか当てよう!その次はあの木から先に蝉を見つけることができたら勝ちのゲームをしよう。水筒には昨日母さんが作ってくれたレモネードが入ってるから大丈夫!そんで明日の朝はカブトムシを捕まえに行くから今日の夜に蜂蜜漬けにしたバナナを靴下に入れてあのおっきい木に仕掛けよう!たぶんいっぱい寄ってくるよ。そんでカキ氷を作る機械が家にあるから家に帰ってカキ氷を作ろう!カルピスの原液はあるけど、イチゴシロップと練乳はスーパーに買いに行こう!祭りの屋台のラムネは魔法の味がするから飲んでみ!金魚すくいもヨーヨーすくいも全部やろう。そんで夜は花火もするでしょ、もちろん線香花火も、そのあと近くに蛍が見える用水路があるからそこに行こう、凄いよあれはまるで星空の中にいるみたいに思うよ!プラネタリウムより綺麗だよきっと!全部父に教えてもらった。いつか子どもができたら教えてあげたい。そしてそのときにまた、永遠に終わらないでほしいと思っていたあの夏のことを思い出したい。

 

 

 

2019.07.26

25日のHEY-SMITHの仙台ツアーが延期になったので、22日の下北沢でのライブを終えて23日に奈良に帰ってきた。本来今日は仙台から奈良への移動日だったので1日予定を空けていた。海の見える駅に行きたくなり、色々調べていたが、行ってみたいと思った駅までは片道五時間近くかかり、行って帰るだけになりそうだったので諦めた。それでも一応朝9時には目覚ましをかけて家を出ようか考えたがやはりそんな気にはならず、ぼぉーっと考え事をしていたら二度寝してしまい、次に起きたのは昼の12時半だった。クーラーをつけっぱなしにしていたので身体がだるく、顔もむくんでいるのが鏡を見なくても感覚的にわかった。身体がだるいのでなかなか起き上がる気にならず、久しぶりにピンサロにでも行こうかとiPhoneで調べてみたが料金表を見て我に帰った。危なかった、また欲に負けて意味のわからないお金の使い方をしてしまうところだった。YouTubeフジロックの配信を覗いてみたが、涼しい部屋のベッドの上で寝間着のままそれを見ても虚しさ以外の感情が沸き起こらなかったので見るのをやめた。それでもGEZANの配信だけは見ようと思い、明日の11時40分にアラームをかけた。まるで天井から糸で引っ張られたマリオネットの様に体を無理やり起こし、その勢いのままシンクに頭を突っ込んで髪の毛を濡らした。髪の毛を昨日使ったバスタオルで拭きながらラジオをつけた。チャンネルはFM89.4、京都α-STATION。昔から変わらないキヨピーの声が聞こえてきた。今日は何をしようか考えた。外は他人事のように夏で、窓の向こうを見ると真っ白な入道雲若草山の向こうに伸びていた。あの空の青はなんであんなに青いんだっけ、消費税マジで上がるんかな、山本太郎奨学金チャラにしてくれるって言ってたけど当選できんかったな、投票したのに、クソ、ベッドの上に座って色々考えているうちにまた寝てしまいそうになったので服を着替えてとりあえず外に出ることにした。久しぶりにTHROAT RECORDSに寄ってレコードでも見ようかなと思い店の前を通ったがシャッターが閉まっていた。そうだ五味さんもフジロックへ行ってるんだった。ご飯を食べていつもの古着屋へ行き、喫茶店に入ってブログを書き、このあと久しぶりに会う後輩と飲みに行くことになった。もう18時なのに、起きたときに見た空と同じぐらい、まだ空が青い。たまにはこういう日も良い。

 

 

 

2019.07.11

以前よりずっと、答えを出すことが難しく感じるようになった。一つの物事の多面性をできるだけ色々な角度から見れば見るほど、正解は無数に存在し、簡単に否定をできなくなった。

映画や小説に、結論をあまり求めなくなった。

気がつけば7月になっていた。鬱陶しい梅雨が続き、田んぼに植えられた苗は綺麗に整列している。バイト先の中国人の社員は大阪の店舗へ転勤になった。「心から感謝です。奈良店お仕事楽しいです。皆様にお元気で頑張りましょう!さよなら、さよなら。」とLINEに残して、店のグループLINEを退会していた。ストレスで赤い蕁麻疹が広がっていた彼の顔を思い出した。この前、最近入ってきた短髪金髪の見るからにやんちゃそうな高校生の男の子にふと、お前は中国人嫌い?と聞いてみた。一瞬のためらいもなくそいつは、いやそういうのないっす、国とかそういうので差別するの自分嫌いなんで、と、純粋な目をして言った。その目は無知ゆえにまだ濁っていないだけか濁る余地のないものなのかまでは勿論わからないが、その透明さに自分の濁りが目立って見えた。その後にホールにいたおれと同い年の女の子に同じことを聞いてみた。そいつも一瞬のためらいもなく、めっちゃ嫌い、だって汚いし図々しいし、と言った。

その日は短髪金髪の高校生につまみ食いの極意を教えた。いかに社員にバレないように食べるかが自分たちのオアシスを守るコツなんだと説明した。そのあと、そいつとの会話の中で、そいつの中学生の頃のバスケ部の顧問が、おれの高校時代の一個下の後輩だったことが判明した。それが判明した直後は驚きと久しぶりにその後輩の名前を聞いたのが嬉しくて少し興奮したが、少しあとに何とも言えない感情になった。おれの後輩が先生として接しているこいつにおれは何てしょうもないことを教えていたのだと、数分前につまみ食いの極意を説明した自分を猛烈に恥じた。生きていれば色んなことが起こるらしい。そして奈良は狭かった。

最近の香港のデモで、中国の今の政治状況を初めて知った。人を判断するときにはやはり、目の前にいるその人のことだけを見るべきで、その人の国の政治状況なんて気にしなくていいはずだが、最近はそう簡単に判断できないのかもしれない、と思うようになってきた。これは悲しい成長なのかそうではないのか、それすらもわからない。ただ、知りたいと思う。知った上で自分はどこまで濁るのか、何が見えなくなり、何は見え続けるのか、綺麗だと思っていたものを汚いと思うのか、その逆はあるのか、それを知りたいと思う。

 

 

 

 

 

2019.06.18

"ケンさんがアダマと組めばどんなすごいことでもできると思います、ぼくは、たとい、小さくても自分のことをしたいのです。"

レコーディング最終日、録りたい音は前日までにすべて録り終えていたので、今日はエンジニアさんが1日中作業をする日だった。おれは奈良から持ってきた村上龍の69を読み終えた。とても面白く、久しぶりに、まとまった時間があったというのもあるが、1日で読み切った。えーすけもこの小説が大好きだと言っていた。上の文は、小説の中で、岩瀬がイヤヤを抜けるために書いた手紙の言葉だ。溢れ出す青春は、誰にも邪魔されることなく、走り抜けるべきなんだ。邪魔をするものがいるのなら、それが教師でも、警察でも、神様でも、ツバを吐いて中指を立てて歯向かわねばならない。そして、全速力で逃げればいい。「想像力が権力を奪う」素敵な言葉だ。もっと人生を楽しまなければいけないと、強く思った。人生を楽しむというのは、例えば友だちたちと夏に海辺へ行きBBQをしたり、散々飲んでクラブへ行きすぐヤレそうなお姉ちゃんをナンパしてホテルへ行ったり、そういうことをしなくても、できなくても、ブックオフへ行きタイトルだけで読みたくなった本を探して買ったり、缶ビールを飲みながら街を歩き好きな音楽を大音量で聞いたり、そういう楽しみ方もあるので、自分の楽しいを追求していきたい。世間の楽しいに自分の楽しいを合わせる必要は一つもない。人生に他人からのいいね!なんて必要ない。

機材車は富士山を背中に奈良へ走る。山中湖を離れた途端に気温は暖かくなり、壮大な山の力を感じた。おれたちはいつも自然の支配下のもとにいつ奪われるかわからない平凡な生活を送っている。少しの間奈良へ帰り、また遠征が続く。26歳の夏を楽しみたい。全力で物事に取り組む際、年齢というのは関係ない。そう言い続けることが大事なんだと思う。笑っているのはいつもベンチにすら入れない奴らだ。イヤホンをつけて、目を瞑ってしまえば世界にはもうおれ1人しかいない。それでも気になるときは外野で騒いでる奴らの目の前まで行き、そいつらの顔にツバを吐き、中指を立てながら全速力で逃げるんだ。イヤホンはつけっぱなし。そんな奴らの話は聞く必要もない。想像するだけで笑えてくる。きっとそんなこと怖くてできないけど。想像して、笑うだけでいいんだ。想像力は権力を奪う。

 

 

2019.06.17

レコーディング初日、機材車は朝7時に奈良を出て山中湖へ向かった。移動中の空は暗く、雨が降り続いていた。13時半に山中湖の近くにあるレコーディングスタジオに到着した。森の中を進むとログハウスが並んでいて、そのうちの一つがレコーディングスタジオになっていた。秘密基地みたいで少しワクワクした。スタジオの中は天井が高く、ドラムの音がよく響きそうだった。ドラムテックの高田さんとドラムセットを組んで、えーすけとなおてぃも各々の機材をセッティングした。夕方前に録り出し、夜には予定していた曲数のベーシックを録り終え、ドラムの出番は終了した。夜が深くなるにつれ雨は次第に強くなり、周りの木々の葉に雨が打ち付けられて奈良の家にいるときよりも大きな雨音を感じた。このレコーディングスタジオはきのこ帝国がインディーズ時代に使っていた場所らしく、おれの好きなあのアルバムもあのアルバムも、この緑に囲まれたスタジオで録ったのか、と夜にビールを飲みながら思った。先日、きのこ帝国は活動休止を発表していた。解散ではないが、いつまでの休止なのかはわからない。最近、好きなバンドのボーカルが、音楽を辞めようと思っている、と言っていた。話してくれたときのその人の笑顔が少し引きつっていた気がした。もう疲れたんだ、とその笑顔が言っていた気もした。その後に彼らのライブを見て、あまりにカッコよくて、悲しくなった。この音楽が売れない世界線とは、一体何だ?そんな世界は、もういっそのこと滅んだ方がいいんじゃないのか?どうしてあの人があんなことを言わなくちゃいけない?良い音楽とは何だ?わからなくなったので、ビールを飲んだ。すべてのものごとは、始まった瞬間から終わりへ向かっていく。必ずいつか終わりが来る。終わりが来るまでの、短い永遠の間に夢を見る。

今日はレコーディング3日目、えーすけが歌録りをしている。6日前の6月11日、十三FANDANGOでの最後のライブの日、ライブ中にえーすけが突然、セットリストを変更して新曲をやりたいと言い出し、本来やる予定だったmillionをやめて、完成したばかりの新曲を初めて人前でやった。その曲を今えーすけが歌っている。これは何の示唆でもなく、ただ純粋に、歌詞とメロディーと声をブースで聴いて、その音楽に対して、不意に涙が出そうになった。友だちと暗くなるまで1on1をしていたあの日々のように、好きな人たちと好きな場所へ行き未完の音を鳴らして朝が来るまで飲み明かしたあの日々のように、この日々も勿論、いつか来る終わりへ向かって走っている。時計の針が壊れることはない。日々の生活に、そういう少しの虚しさは薄っすらと付き纏っている。最近そういうことをよく考える。新曲を聴いて、またそういうことを考えた。

ここの夜はとても静かで、レコーディングに関する音が鳴っていないときは外から何の音も聞こえてこない。陽が出ているうちは鳥のさえずりが聞こえてくる。それ以外の音はない。虫が多いというところ以外はとても良い場所だ。新しい音源の完成が待ち遠しい。

 

 

 

 

 

2019.06.14

また失敗をした。スタジオ前、少し時間が空いたので駅の近くのサンマルクカフェに入って新発売のロイヤルミルクティーチョコのクロワッサンを頼んだ。いつもはチョコクロワッサンを頼む。なんとなく、ロイヤルミルクティーチョコの方を買う前から従来のチョコクロワッサンの方が美味しそうな気はしていた。が、もしかしたらいつものチョコクロワッサンよりもこちらの方が美味しいかもしれない、と、少し期待して買ったが、やはりチョコクロワッサンの方が美味しかった。いつもそうだ、新しいものに目が行って、そちらに手を出し、後悔をする。もう何年もそんなことを繰り返している。家を出るときは雨が降っていなかったのに、電車を降りて駅から出ると生駒の町は雨に濡れて空気も重たくなっていた。電車でスタジオへ向かうときはほぼ毎回、駅の近くの宝くじ売り場でスクラッチ宝くじを一枚買う。もう宝くじ売り場のおばさんにもさすがに顔を覚えられているだろう。買う前に毎回、万に一つの可能性で100万円が当たったらどうしよう、いや、せめて1万円でもいい、1万円ぐらいなら当たる可能性はある、と脳内で独り言をつぶやいているが、1万円すら当たったことはない。今日は200円が当たった。一枚200円なのでプラマイ0だ。10円玉で削ったスクラッチの券をおばさんに渡して200円を受け取り、財布に入れた。今日も何も起こらない。香港では国民が大々的にデモを行っているらしい。寝起きのベッドの上でデモに参加していた1人の国民が数人の警察にラバーブレットで殴られている様子の動画を見ていた。寝転がったままデモの原因をネットで一通り調べて、腹が減ったので起き上がってお湯を沸かしてカップ焼きそばを作って食べた。あくびが止まらなかった。床の上の髪の毛やホコリが気になったので掃除機をかけて、洗濯物を干した。相変わらず、日々は川のように勝手に流れていく。ただ漠然と生活費を稼ぎ、ドラムを叩き、アウトレット家具屋で買った安いベッドの上で眠る。日々には音楽が流れて、文字の中で話は完結し、ハッピーエンドのあの映画はフィクションで、日本人の、少なくともおれの周りにいる人の多くは中国人を嫌っている。情報は溢れ、承認欲求の海で溺れているが溺れていることすら気付かないまま人々は溺死。明日から4日間レコーディングが始まる。完成したものを聞いて心がどれだけ弾むのか、再確認したい。