2017.11.14

ライブのない日々が終わりかけの秋に馴染んでいく。新しい音楽ばかりを探す。新しい本ばかりを探す。25歳のおれはビールが相変わらず好きで最近ホッピーなんか飲み出した。でも家では全然飲まないんだ。誰かと飲むお酒がやっぱり好きなんだと思う。でも散歩中に1人で飲む缶ビールは好きだ。自分でもよくわからない。この前近所のおじさんが原付を出そうとしたおれに、「事故らんようにな」と声をかけてくれた。初めてそのおじさんにそんなことを言われた。人に伝わっていくのは親切だけでいいなと思った。怒りは芸術に、自分の力に変えればいい。人に伝えるものじゃない。怒るということは、器が小さいことだと思う。そう頭では思っていても、イライラすることなんて日常に沢山溢れている。そんなもんなんだたぶん。それでも近所のおじさんがかけてくれた言葉や、渋谷の居酒屋で昼ご飯を食べたとき大将がおまけで出してくれた冷奴や、大分の薬局の薬剤師さんがくれた風邪薬や、雨の日にお客さんがくれたビニール傘や、友達が奢ってくれるビールなんかで、幸せな気持ちになる。そしてそういうことは、これから先も忘れないんだと思う。怒りの感情なんてすぐに忘れる。蓄積されるのは、小さな他人からの親切だけでいい。譲れない怒りは持つべきだ。ただほんの少しでいい。あとは適当に忘れていい。

 

 

 

 

2017.11.03

ツアーファイナルが終わり、奈良に帰ってきた。ツアーファイナルというのは名前だけで、ツアーが終わってもライブは続く。昨日はあんなにたくさんの人が集まるなんて思ってもいなかった。ステージから見えるみんなの顔はおれたち以上に真剣で、それが嬉しかった。Toursのイントロで初めて客席が明るく照らされて全体が見えて、こんなに人がいたのかと驚いた。「おぉ」ぐらいの声が漏れた気がする。ライブが終わってすぐ、見に来てくれていた同級生の八木ちゃんのもとへ行った。今東京で仕事をしているそいつは高校のときの友だちで、確か廊下で八木ちゃんがレモンティーを急にくれたのがきっかけで仲良くなった。2人で乾杯をしたのは初めてかもしれない。それが東京のライブハウスで、おれらのワンマンライブで、ソールドアウトしていて、なんだか嬉しかった。他愛もない話をしていたら関係者への挨拶があるから中に来てと言われ、途中でフロアの方へ戻った。関係者への挨拶というのは好きじゃない。わざわざ来てくれたのだから挨拶をする、というのはわかるが、あんな流れ作業で挨拶をしても意味がない気がする。そしてわざわざ来てくれたのだからということならお客さんたちもみんなそうだ。貴重な時間を削って、お金を払って見に来てくれてる。そこに差は一つもない。挨拶が終わって、バーカウンターの前でまた八木ちゃんと少し飲んだ。こういうときのビールは驚くほど美味しい。関係者への挨拶の時間より、仕事終わりにスーツで見に来てくれた同級生との時間の方が何倍も大事だ。いつもふざけていた野球部の八木ちゃんは、スーツをしっかり着こなしていた。テスト休み中、机をつなげて黒板消しをネットに、スリッパをラケットにしてよく卓球をしていた八木ちゃんはすっかり大人になっていた。またなと言って、八木ちゃんは新宿LOFTの階段を登っていった。打ち上げはワンマンライブとは思えないぐらい人がいてとても賑やかだった。それも嬉しかった。今日来年一年のミーティングをした。また気がつけば桜が咲いて蝉が鳴き出し金木犀の香りがしたと思ったら吐く息が白くなっていくんだ。おれはドラムじゃないとダメなんだなんてことは思ったことがない。たまたま今音楽で、たまたま今ドラムを選択しているだけで、こだわりなんてない。時間がないなんて言っていたらあっという間に死んでしまう。これからもおれはおれがやりたいことをやりたい。

 

 

2017.10.23

久しぶりに奈良に帰ってきた。実家の居間にはコタツが出ていた。次の日の今日、7時間のスタジオがあった。帰りの電車に揺られている。電車の椅子には、くたびれた顔をしたサラリーマンたちが人の視線など御構い無しというふうに寝ている。自分も疲れているとき、優先座席で堂々と寝るサラリーマンを見ても何も思わない。みんな、日々の生活に疲れている。誰にも評価されず、みんな頑張っている。明日はバイトだ。また普通の生活に帰ってきた。ファミチキを食べたい。温かいコーンポタージュを飲みたい。安上がりの癒しで充分だ。

 

 

 

2017.10.22

福島で父がライブを見に来た。父がライブに来るのは2回目だ。打ち上げのあと、2人で飲みに行った。「ゴルフの打ちっ放しのバイトの代わりが見つかったから、明日見に行けることになった。」という前日の父からのラインでわかるように、お金なんてないくせに、父は居酒屋でやたらと高いものばかり頼んだ。「のどぐろの刺身あるぞ、これいけ!」「お、牛タン炙り焼きは絶対うまいぞ、食え!」と嬉しそうにメニューを指差しながら言った。美味しそうな刺身も牛タンも父はあまり食べなかった。相変わらず丸い父の背中は誰よりも優しかった。おれはいつか父に回らない寿司をご馳走してやりたい。

雨の今日は10月最後のライブ。雨の日はどうしてもテンションが低い。

 

 

 

 

 

 

 

2017.10.16

新潟のホテルで昔飼っていた犬の源太郎の夢を見た。自分でセットしたアラームに夢を中断されて、すぐに夢の続きを見ようとアラームを切って目を閉じたがもうその夢は見れなかった。車でいっしょにどこかへ旅していた。相変わらず源太郎は車の中で落ち着きがなく、窓の外に顔を出して見たことのない外の景色を必死で目に焼き付けようとしていた。それ以外のことはもう忘れた。夢の内容はすぐに忘れてしまう。起きて顔を洗い服を着替え、ホテルの横の吉野家へ朝飯を食べに行った。カウンターに座った。すぐあとに来たおじいちゃんがおれの隣に座った。おじいちゃんに水を持ってきた店員さんはにっこりと微笑みながら「いつものですね」と言うとおじいちゃんも照れながら「ありがとう」と返していた。マニュアルがすべての大手チェーン店に、マニュアルにない人の暖かさを感じた。新発売の牛生姜焼き丼を食べながらさっきの夢を必死に思い出そうとしたがやっぱり無理だった。部屋に戻って荷物を取り、ロビーに集合してみんなで今日のライブハウスへ向かう。

 

 

 

2017.10.08

この前読んだ本のクライマックスに、「だってオレたち、あの世に知り合いがいるんだ。それって凄い心強くないか!」というセリフがあった。この本はとても面白かった。この本のおかげで、遊びに行くといつもお菓子を出してくれたひいお婆ちゃんも、結局一回も腕相撲勝たしてくれなかった爺ちゃんも、手作りのカッコいいラジコンをくれた叔父さんも、元気に庭を走り回っていた源太郎も、みんなあの世からおれのことを見守ってくれていると思うとこの世に怖いことなんて何もないと思える。何もないと言うと嘘になるけど。少し不気味だった仏壇の前でも平気で寝れる。友だちにケンカを売ったヤンキーたちにも、ビビらず立ち向かいたかった。監督と目が合えば交代してもらえる場面だとわかっていたのに、ベンチで震える足を何度叩いても、監督を見れなかった。震えた足で、どうするかが大事なんだ。頭ではわかってる。頭ではわかってるんだ。逃げた事実は人に伝えるとき嘘でどうとでも変えられる。ただ自分の中ではどうしようもなく残っている。あのときのすべてを覚えてる。怖くて足が震えることは恥じゃないんだと思う。震えた足が動かないことがどうしようもなく恥ずかしいんだ。今日は天気が良い。うどんを腹一杯食べたら眠くなってきた。今日は京都で精一杯叩く。

 

2017.10.03

窓の外で海がまるで生きているかのように常に動いている。遠くの水平線が、地球は丸いということを示している。空の色とは確実に違う青をした海は所々に白が散りばめられている。常に動いている海は風のせいか、地球が回っているせいか、その両方なのか、とにかく不思議だ。昨日の夜、小樽からフェリーに乗った。夜の出航時間までは札幌で時間を潰した。テレビ塔のある大きな公園のベンチで座っていると前のベンチにボロボロのアコースティックギターを弾きながら誰にも届かないような小さな歌声でメロディーを歌う外国人が座っていた。見た目は少しカートコバーンに似ていて、ワイルドな金髪と髭がカッコよかった。その外国人は周りを見ておもむろに立ち小さな声で歌を歌いだした。札幌の紅葉の下、少し冷たい澄んだ空気の中で歌うその姿は美しかった。おれ以外に誰も彼の歌は聞いていないようだった。たまに通りすがりの外国人が小銭をその人の目の前に置くぐらいで、その人たちも歌を聞いている印象はなかった。歌を歌うその外国人に凄く興味があった。異国の地の路上で1人ギターを弾き歌を歌い金を貰おうなんておれなら思わない。何を思って歌っているのか凄く興味があった。おれは暇だったのもあり、コンビニでビールを二本買ってきてタイミングを見てその人に話しかけた。その人は日本語はほとんど話せなかった。ビールが好きかと聞くと笑顔でもちろんと言い、おれが買っていたビールを渡すと驚き喜んでいた。その人は歌うのをやめ、おれたちはベンチに座りいっしょにビールを飲んだ。何歳なのか、どこからきたのか、なんで札幌で歌っているのか、好きな音楽は何か、色々しどろもどろの英語で聞いた。驚くほど早い英語で質問の答えが返ってきた。そのとき、少し前にいっしょにツアーを回っていた黒人のデイビッドは凄くゆっくりおれたちに英語を話してくれていたんだなと、思い返して彼の優しさに少し感動していた。半分は聞き取れて半分はよくわからなかった。その人は会話をしながらポロポロと綺麗なコードでギターを弾いていた。その人はヒッチハイクで世界を旅しているらしい。1年前飛行機で日本に来て、またヒッチハイクで今度は日本を回っているらしい。島国だからなかなか出られないよ、みたいなことを笑いながら言っていた。飛行機代なかなか貯まらないよ、みたいなことも笑いながら言っていた。これがアメリカンジョークというやつか、いやジョークではないか、と思っていた。お金は弾き語りと、ボランティア施設で泊まりながらアルバイトをして稼いでいると言っていた。たぶん。おれが英語で聞けるレベルのことを大体聞き、これ以上いても特に何もないなと思い、I'll goと言って席を立った。その人は「ビールありがとう」みたいな意味の英語を言っていたと思う。握手をして別れた。名前も聞いていないが、こういうのもたまにはいいなと思った。周りから到底理解されないようなことを真剣にやる人は面白い。何かエネルギーに満ちている。冷たい風が余計に気持ちよく感じた。

海の見える窓の横の椅子にご飯を食べたりしながらもう6時間近く座っている。札幌のブックオフで買った本を一冊読み、今これを書いている。船酔いしないタイプでよかった。太陽が水平線の向こうに沈もうとしている。おれが見ているあの水平線の向こうには中国大陸があって、そこでは全然知らない言葉を使った人々が生活をしている。なんだか嘘みたいだ。言葉が通じなくても、綺麗な景色の下、美味しいビールを飲めば心は通じる。そんな馬鹿みたいに能天気な世界ならいいのにと思う。